前回は、クリニック開業にあたっての「診療科目」と「場所」の選び方を解説しました。今回は、クリニックの立地選定段階から整えたい「調剤薬局」との協力体制について見ていきます。

クリニックと調剤薬局の分離が進む都市部

かつて、市井のクリニックは、どこも院内処方を行っていました。診察を受けた病院でそのまま薬を処方してもらうことは、患者にとっても便利だし、クリニックにとっても利益の上がることだったからです。しかし、いつの頃からか、医薬分業が国の政策として進められ、医師は処方箋を発行するだけで、薬は調剤薬局で購入することが当たり前になってきました。

 

実は、薬は昔「薬九層倍」(原価の九倍で売られる)などと揶揄されるように、利益率が非常に高い商品として知られていました。そのため、医師が必要のない薬まで処方して「薬漬け医療」になっているのではないかとの批判が起きたのです。そこで、1990年代から、国は院外処方の医師の報酬を高くするなどの利益誘導政策で、医薬分業を進めました。その結果、都市部ではクリニックと調剤薬局の分離が進み、院内処方がほとんど見られなくなったのです。

 

しかし、院外処方といっても、クリニックと薬局の場所が離れていると、患者にとってはどこで薬を受け取っていいのかわからなくて不便です。そのため、多くのクリニックは、すぐそばに調剤薬局を抱えることになりました。調剤薬局にとっても、クリニックを出てきた患者がすぐに立ちよれる場所に店を構えた方が、集客のメリットがあるからです。

 

とはいえ、新規開業したクリニックのそばに、調剤薬局がすぐに店を出してくれるとは限りません。患者の利便性を高めるためには、クリニックと調剤薬局が隣り合っていることが理想なので、調剤薬局の誘致にもそれなりの腕が必要です。

ほとんどの患者はクリニック隣の調剤薬局を利用

できればクリニックの立地を探す計画段階から、調剤薬局と協力できるとよいのですが、医師と薬剤師とは意外と交流が薄いもので、適当な調剤薬局が近場にできないこともままあります。どうしても近くに調剤薬局がない場合は、薬剤師を雇って院内処方をすることもできますが、そうなると薬とスタッフの管理の手間もかかることになります。開業当初で右も左もわからない時期に、そのようなコストを負いたくはありません。

 

私の会社で開業支援したクリニックのケースでは、薬剤師と医師とを引きあわせて、地主さんから土地を借りる際に、クリニックと調剤薬局と駐車場とのすべてが建てられるようにあらかじめ交渉を行いました。クリニックと調剤薬局とはあくまでも別の経営ですから、建物が隣り合っているとはいえ、土地を借りる主体は、医師と薬剤師とで別々です。

 

しかし、私の会社が一括でまとめて交渉することで、別々に借りるよりも安価で土地を借りることができました。また、経営母体が別だからといって、経営の協力をしてはいけないということはありません。クリニックと調剤薬局とは、経営面では一蓮托生ですから、当然、パートナーとして連携した方がお互いのためになります。

 

たとえば、駐車場は共同で使用しています。クリニックに車で来た患者は、そのまま調剤薬局に歩いていって、薬の処方を受けたところで駐車場に戻って帰宅することができます。また、患者への薬の処方がよりスムーズになるように、患者に手渡す処方箋とは別に、クリニックのパソコンから調剤薬局のパソコンへ、処方箋が即座に送られることになっています。調剤薬局は、患者が来る前に薬の準備ができるので、薬局での待ち時間を減らすことができます。

 

もちろん、患者には他の調剤薬局を選ぶ権利もあります。その場合はせっかく用意した薬が無駄になってしまうのですが、患者の満足度を高めるためには必要なコストだと割り切っています。何といっても、病院における患者の不満の最たるものは「待ち時間の長さ」なのです。それに、実際のところ、クリニックの患者のほぼすべてが、隣の調剤薬局を利用しています。それだけ、クリニックと調剤薬局とは一体の存在として、患者に認識されているのです。

本連載は、2017年1月26日刊行の書籍『自己資金ゼロ・ローリスクで 儲かるクリニックを開業する方法』(幻冬舎メディアコンサルティング)の本文から一部を抜粋したものです。

自己資金ゼロ・ローリスクで 儲かるクリニックを開業する方法

自己資金ゼロ・ローリスクで 儲かるクリニックを開業する方法

市川 直樹

幻冬舎メディアコンサルティング

勤務医は慢性的な医師不足で時間外の労働が多く、給与も働きに見合わず、過酷な労働環境におかれています。 一方、そうした状況から理想の医療の実現を目標に開業する医師もいますが、都市圏のクリニックは今や乱立状態にあり…

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