前回は、交通事故被害者の診断を避けたがる医師の存在について取り上げました。今回は、交通事故補償における裁判所の問題点について見ていきます。

被害者にとって最終的な頼りになるはずが・・・

交通事故被害者がその補償においていかに不当な扱いを受けているか、その一端を紹介した。読者の方々もすでにその実態と深刻さにお気づきになられたと思う。保険会社自体の問題、そして自賠責保険が抱える問題など、いくつかの要素が重なって被害者の不利益が生じている。当然、保険会社が行う示談交渉に応じられず、裁判に持ち込まれるケースも少なくない。しかし被害者にとって、最終的な頼りとなるべき裁判所が、皮肉なことに、最後の大きな砦となって立ちはだかっているのである。

 

確かに裁判所に持ち込まれ、和解にしろ判決にしろ、保険会社がそれまで提示した額よりは増えるケースが多い。しかし多少補償額が増えたからといって手放しで喜ぶことはできない。というのも結局裁判所が行うのは補償額の増減の帳尻合わせでしかなく、保険会社と被害者の利害の調整がほとんどであるからだ。本来、こういう事態が起こる背景には保険会社の体質、補償制度そのものが抱える構造的な問題など、より改善し、解決すべき問題が存在している。その問題の本質のところにはほとんどメスを入れようとはしないのである。

 

被害者側の意見と保険会社の意見を聞き、お互いの妥協点と落としどころを見つけることも大切だが、問題の本質がどこにあるのか、それをどのように変えていかなければならないのか、我が国の裁判所はあたかも判断停止をしたかのように見解を示そうとはしない。いってみれば病気の対症療法だけに終始して、病気の原因となっている病巣を摘出しようとしないから、いつまでたっても症状が消えることがないのである。

国民の権利保護という使命は何処へ?

そればかりではない。そもそも裁判所であるならば国民の権利保護という大きな使命があるはずで、自ずと弱者に配慮した視点で、和解なり判決なりを行うべきである。しかしこれまでの交通事故裁判に関して、一連の裁判所の態度や判決などを見ても、どうやら保険会社と変わらず、被害者に対して厳しい見方を取っているように思える。例えば症状固定や後遺障害の認定に関しても本人の自覚症状はほとんど顧慮されず、他覚的所見を優先する。書籍『ブラック・トライアングル[改訂版] 温存された大手損保、闇の構造』でも触れるが、例えばムチ打ち症などの神経の損傷はレントゲンなどには映らない。はっきりと目に見える形での器質的な損傷があり、他覚的所見として提示できなければ、本人がどんなに痛みを訴えても通らないのである。

 

もちろん客観的な証拠を求めるのが司法の基本であるが、被害者の苦痛や感情をほとんど無視した現行の裁判のあり方にも大いに疑問を持っている。被害者は相応の補償額を求めると同時に、示談交渉の段階における保険会社や医師の心ない態度に怒り傷ついているのである。せめて裁判所には、そのようなものとは違った態度、見解を求めるのも人間の心理である。しかし現状を見る限り裁判所はただひたすら補償額の帳尻合わせに終始し、そのような被害者感情を顧みない。それどころかお役所的な事なかれ主義で、本質的な問題にはほとんど触れず、むしろ被害者感情を逆なですることも少なくないのである。

 

本来、裁判所という日本の司法の最高権力が交通事故補償の問題に本気で取り組んでいたなら、現在のような被害者が直面する様々な問題の多くは解決できていたはずである。逆にいえば裁判所の怠慢こそが、我が国のゆがんだ交通事故補償を許し温存させている元凶ともいえるのではないか? 書籍『ブラック・トライアングル[改訂版] 温存された大手損保、闇の構造』ではさらに詳しく我が国の交通事故裁判の問題点、裁判所の問題点を指摘する。

本連載は、2015年12月22日刊行の書籍『ブラック・トライアングル[改訂版] 温存された大手損保、闇の構造』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

ブラック・トライアングル[改訂版] 温存された大手損保、闇の構造

ブラック・トライアングル[改訂版] 温存された大手損保、闇の構造

谷 清司

幻冬舎メディアコンサルティング

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