前回は、交通事故補償における裁判所の問題点を取り上げました。今回は、交通事故補償における損害保険会社の問題点について見ていきます。

示談成立までを一手に引き受ける損害保険会社

前回までは我が国の交通事故保険制度の抱えている問題点をいくつかクローズアップした。そして交通事故被害者を取り巻く3つの機関、保険会社、国、裁判所のトライアングルが被害者の救済と保護を行うどころか、それを阻む大きな壁として存在していることを述べた。本連載ではこれら問題の原点として真っ先に挙げられる損害保険会社のやり方とその問題点を指摘したい。

 

交通事故を起こした場合、加害者は被害者に対して損害賠償義務を負うことになる。損害の金額がいくらになるのか、どのように支払うのかという交渉は、本来加害者と被害者の間で行うものだが、実際に交通事故が起きると被害者側と交渉をするのは損害保険会社であり、以降示談成立まで損害保険会社の担当者が窓口になって行うのがほとんどである。治療費の支払い、医師とのやり取りなど、損害保険会社の担当者が一手に引き受ける。

専門家が窓口となるのを心強く思う被害者もいるが・・・

交通事故に遭った被害者ならわかるだろうが、当事者同士のお金の請求ややり取りなど、感情的なしこりによって抵抗がある場合も少なくない。その点損害保険会社の担当者である専門家が一手に引き受けてくれることを、最初は心強く思う被害者もいるかもしれない。しかしこれがまず大きな誤りなのである。彼ら損保会社は示談を一手に引き受けているのをいいことに、彼らの都合のいいように示談を成立させてしまうケースがほとんどだといっても過言ではないからだ。

 

今までの連載でも触れたとおり、日本の交通事故の保険制度は最低補償とされる自賠責保険と、それ以上の補償に対応する任意保険からなる2階建て構造になっている。損害保険会社は自賠責保険の最低補償を踏まえつつ被害者と交渉するわけだが、実際にはまず示談によって決まった保険金を損害保険会社が支払い、その後自賠責分を保険会社が自賠責保険から回収するという構図になっている。

 

例えば仮に被害者との話し合いで保険金が1000万円と決まり、そのうち自賠責負担分が800万円だとしよう。その場合、保険会社はまず1000万円を被害者に支払った後、自賠責保険から800万円を回収する。結局差額の200万円を損害保険会社が負担するという仕組みになっている。

本連載は、2015年12月22日刊行の書籍『ブラック・トライアングル[改訂版] 温存された大手損保、闇の構造』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

ブラック・トライアングル[改訂版] 温存された大手損保、闇の構造

ブラック・トライアングル[改訂版] 温存された大手損保、闇の構造

谷 清司

幻冬舎メディアコンサルティング

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