商品として差別化が難しい電気
前回の続きです。
電力事業に魅力を感じられない2つ目の理由としては、「電気は商品として差別化が難しい」という意見があります。これは、きっと読者の皆さんも想像しやすい理屈だと思います。
私たちが使う電気自体には、色も臭いもありません。私たちが野菜や果物、ソファや照明などのインテリアを選ぶ場合は、見て触って、また実際に味わってみながら、自分の好みの品物を比較検討しながら選ぶことができます。
ですが、電気は形状などの違いがありません。ましてや、コンセントごとに電気の色が異なることもありません。結果的に、顧客は電気を選ぶ際に違いを見出すのが難しい状況です。
いわゆるコモディティ商品(日用品のように一般化したため品質での差別化が困難となった製品やサービス)なので、差別化が難しい状況にあります。コモディティ商品は、規模の経済(生産量が増大すると、原材料や労働力のコストが下がり、結果収益率が上がる仕組み)が働くため、資本力のある大企業が有利です。
そのうえ、私たちがモノを選ぶときの心理も影響しています。電気自体は、どの電力会社から購入しても、それが原因で停電率が上がるなどということはありませんが、漠然と大きい会社から買うほうが安心と思う人は多いでしょう。
例えば、テレビCMで見る会社や以前から知っている会社など、そういった企業としての歴史があり、資本力のある会社のほうが信頼感を得やすいので、なかなかベンチャーが消費者にPRしていく切り口が見つかりにくく、新しく参入する企業が活躍するチャンスが少ないのではないかといわれます。
人口減少によって懸念される「マーケットの先細り」
3つ目としてあるのは、電力マーケットの先細りの懸念です。それは、これから日本の人口が減っていくので、全体需要が伸びず、マーケットは、小さくなっていくのではないかという指摘です。
日本の人口は、現在の1億2000万人をピークに、30~40年後には約1億人程度まで減るという予測があります。人口が減りますから、その分、日本全体の電気の使用量も減るだろうという試算は容易です。
対して、通信の自由化は、それまでコードで家とつながれていた電話が携帯可能になることで、新しい通信手段ができ、市場が爆発的に広がりました。世帯に1台だった電話が今では、家族全員がそれぞれの携帯電話を持っています。
つまり、新しいマーケットがゼロから生まれたため、企業は、その白地のキャンパスにどんどん色を塗り進めていくような形です。新規参入企業は、伸びていくマーケットの一部でもシェアを取ることで成長できました。
それに比べると電力事業は、携帯電話の登場のような爆発的な市場の拡大予想ができず、それどころかマーケット規模が下り坂(縮小傾向)と予測できるため、苦戦を強いられると考えられています。
以上3つの指摘から考えると、「新しいマーケットをつくりようがない」「新しい会社に勝ち目はない」と感じる方も多いでしょう。
実際に話を聞いてみると、電力市場に参入したけれども「どうやって自社は、差別化していくべきだろうか?」「限られた予算の中で、どうやって顧客にPRしていくことができるだろうか?」と、かなり多くの電力会社が悩んでいます。