今回は、空き家であることを示す「管理看板」の設置などについて見ていきます。※本連載は、一般社団法人 大阪府不動産コンサルティング協会(会長・米田淳氏、理事・井勢敦史氏・岡原隆裕氏、会員・芳本雄介氏/他)の編著、『空き家管理マニュアル』(建築資料研究社)の中から一部を抜粋し、近年深刻化する空き家問題について、その「管理」の具体的なポイントをご紹介します。
所有者の承諾をもとに設置したい管理看板
前回に引き続き、空き家管理の建物管理について見ていきます。
(6)管理看板(管理ステッカー)
管理看板を設置するメリットには、次のようなものがあります。
●空き家であっても放置されているわけではなく管理がされ、人が出入りすることをアピールでき、いたずらや不法侵入等を抑制できる可能性があること。
●近隣の方からの植栽の越境や落ち葉、ゴミなどについての苦情に、管理事業者が初期対応できることから、トラブルを未然に防止できる可能性があること。
●管理事業者が各種の問い合わせの窓口になれることから、所有者のわずらわしさを軽減できること。
●空き家管理作業を行う管理スタッフが、近隣住民から怪しまれないようにすることができること。
一方、管理看板の設置は、空き家であることを公開することになるため、空き家所有者としての情報が取得されるきっかけになるなど、プライバシー保護に問題がないとは言えません。
したがって、空き家への管理看板(管理ステッカー)の設置は選択できるもの(オプション)とし、あらかじめ所有者の承諾を得ておくことが望ましいといえるでしょう。また、不動産業者名入り看板の場合、「管理」と表示しても「賃貸」「売却」を連想されることがありますので、依頼者の意向を踏まえて、管理看板(管理ステッカー)の表示方法を工夫することも考えられます。
近隣トラブルや建物の劣化に繫がる植栽・落ち葉の放置
(7)植栽、落ち葉
空き家の木や草が伸び放題で、木の枝が塀を超えてはみ出し、あるいは、落ち葉が空き家の敷地内にとどまらず隣地や道路、側溝などに落ちたままになるなど、近隣に迷惑をかけているケースが見受けられます。
落ち葉は、樋を詰まらせるなど雨漏りや建物を劣化させる原因にもなります。樹木によっては、害虫が多量に発生することもあります。近隣の方が仕方なく掃除をし、迷惑をこうむっていることに辛抱し続けたとしても、敷地の境界の確認や空き家の取り壊し、売却、賃貸などをする際に、トラブルが顕在化することも多いようです。
このように、植栽の手入れや落ち葉の処理などの空き家管理が適正に行われていない場合、空き家所有者には、単に見かけ上の問題ではなく、近隣とのトラブルや建物の劣化につながる恐れがあることを知ってもらうことが大切です。
なお、民法では、「隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。(民法233条第1項)」としており、隣地所有者が、境界線を超えた枝を勝手に伐採することを認めていません。
(注)隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができます。(民法233条第2項)
庭木・植木ともに美しい状態を保つには、季節ごとにしっかりした管理が必要です。しかし、一般的に空き家の植栽の維持管理に多くの費用をかけることは難しいことから、前述のような近隣とのトラブルを避けることに重点を置いた必要最低限の手入れくらいは心がけるようにしたいものです。
植栽の手入れなどは、空き家管理の基本業務には含まれず、追加業務とするのが一般的です。また、見積もりの内訳項目には、剪定料金、ごみ処理等の手数料、雑費などがあります。
一般社団法人大阪府不動産コンサルティング協会 会長
大丸ハウス株式会社 代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター、宅地建物取引士、二級建築士
大阪大学基礎工学部卒。きりう不動産信託株式会社顧問、一般社団法人全国不動産コンサルティング協会専務理事、一般社団法人全国空き家相談士協会専務理事。平成27年12月より大阪市空家等対策協議会委員。
【主な著書・寄稿等】
著書:『新・不動産信託の活用術』(住宅新報社、2008年)、『不動産の信託』(共著、住宅新報社、2005年)
寄稿:『地代・家賃と借地借家』(住宅新報社、2014年)、『事例でわかる!コンサルティングによる不動産ビジネス』(週刊住宅新聞社、2012年)
解説・監修:『不動産コンサル過去問題集』(住宅新報社、2006年~2017年毎年)、事例提供/『居住福祉産業への挑戦』(東信堂、2013年)、『実例にみる信託の法務・税務と契約書式』(日本加除出版、2011年)など
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連載空き家820万戸時代が到来――空き家を持つ人のための管理マニュアル
一般社団法人大阪府不動産コンサルティング協会 理事
公認不動産コンサルティングマスター、宅地建物取引士、公認ホームインスペクター、ファイナンシャルプランナー、住宅ローンアドバイザー、木材アドバイザー
司法書士事務所・不動産コンサルティング会社を経て、現在「住生活コンサルタント」として活躍。
誰もが安全・安心・健康で快適な住生活を営むことができる環境形成を目指し、不動産流通市場の透明化に関する仕組みづくりや地域の活性化、空き家問題などに精力的に取り組む。
また「第三者の立場」で消費者向け、事業者向けの講演・研修・コンサルティングで全国を飛び回る傍ら、業界紙等への執筆も行う。
現在、「新建ハウジングプラスワン」において「小さな工務店のストックビジネス最前線」を連載中。
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連載空き家820万戸時代が到来――空き家を持つ人のための管理マニュアル
一般社団法人大阪府不動産コンサルティング協会 理事
株式会社つばさ資産パートナーズ 代表取締役
公認不動産業務コンサルティングマスター、相続対策専門士、宅地建物取引士、CPM®(米国不動産経営管理士)、賃貸不動産経営管理士
立命館大学法学部法律学科卒。不動産相続コンサルティングを皮切りに、不動産業務、相続サポート業務を行っている。相続に強い専門家ネットワークを構築しているのも強み。
空き家解消の取組みとして一括賃料前払いサブリース方式を使い、空き家活用や空き家の買取り、デザイナーズ戸建賃貸を新築する投資事業などにも取り組んでいる。不動産オーナー向け勉強会「つばさ資産塾」を主宰。
【講演歴】クレオ大阪西(大阪市立男女共同参画センター)、大阪市立住まい情報センター、岡山リビング新聞社、ほか多数。
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一般社団法人大阪府不動産コンサルティング協会 会員
株式会社プロブレーン 代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター、宅地建物取引士、二級ファイナンシャル・プランニング技能士
「思いを築く不動産のCreative Company」をモットーとし、モノだけではなくお客様の思いにもフォーカスし不動産の困りごとを解決します。心豊かな暮らしを育むために和やかに家系学を学ぶ、「幸運を拓く 家族の法則」講座を主催。
【得意分野】①コンサルティング事業(不動産運用、賃貸経営、空き家、相続、信託、債務整理)②不動産再生事業(空き家の借上、老朽アパートの引取り、借地権付建物の引取り)③仲介事業・売買事業(土地、住宅、収益マンション、収益ビルの仲介・売買)
【寄稿】『地代・家賃と借地借家』(住宅新報社、2014年)、『事例でわかる!コンサルティングによる不動産ビジネス』(週刊住宅新聞社、2012年)
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