「車がないと何もできない」半年後に気づいた暮らしの負担
最初に困ったのは、買い物でした。
最寄りのスーパーまでは車で約15分。歩いて行ける距離には小さな商店があるものの、日常の食材をすべてそろえるのは難しい環境です。
「東京にいた頃は、帰り道にスーパーへ寄れました。でも、ここでは牛乳を一本買い忘れただけでも車を出さないといけないんです」
さらに、近くの診療所は診療科目が限られており、以前から通っていた専門医を受診するには、電車とバスを乗り継ぐ必要がありました。
隆夫さんは運転に慣れていましたが、典子さんは長年ペーパードライバーでした。
「今は夫が運転してくれるからいいけれど、もし運転できなくなったら、どうやって生活するんだろうと思うようになりました」
もう一つの負担は、念願だった庭の手入れです。春には楽しんでいた家庭菜園も、夏になると雑草が次々に伸び、草取りだけで半日かかることもありました。
「野菜を育てるのは楽しいんです。でも、暑い日に草を取ったり、虫の対策をしたりするのは、想像していた以上に大変でした」
秋には庭木の剪定を業者に依頼し、約4万円を支払いました。
内閣府『令和5年度 高齢者の住宅と生活環境に関する調査』によると、現在住んでいる地域について「日常の買い物に不便」と回答した人は23.9%、「医院や病院への通院に不便」は23.8%、「交通機関が高齢者には使いにくい、または整備されていない」は21.5%でした。
高齢期には、日常の買い物や通院に必要な移動手段の確保が重要になります。
隆夫さん夫婦の場合、家賃の支払いがなくなったことで毎月の住居費は減りました。一方、固定資産税や住宅の修繕費、車の維持費などは今後も必要です。
「家賃がなくなれば生活が楽になると思っていました。でも、車の買い替えや家の修理のことまで考えると、そんなに単純ではありませんでした」
夫婦は現在、すぐに家を売ることまでは考えていません。ただし将来も住み続けられるかについては、改めて話し合うようになりました。
まず、庭の一部を手入れしやすい形に整え、買い物には宅配サービスを利用することにしました。また、運転が難しくなった場合に備えて、地域のバス路線やタクシーの利用方法も調べています。
「静かな環境は気に入っています。でもここで10年、20年と暮らせるかは、もう少し考えないといけませんね」
定年後に郊外の中古住宅を購入すれば、都心の賃貸住宅より住居費を抑えられる場合があります。ただし、購入価格の安さや住宅の広さだけで判断すると、日々の移動や維持管理に負担を感じることもあります。老後の住み替えでは、車を使えなくなった場合の生活や将来の修繕費まで想定し、長く暮らせる環境かどうかを確認することが大切です。
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