孫の「難関私立合格」に喜んだ日
「お父さん、本当にありがとう! タカシ(仮名)もすごく喜んでいるよ」
長男の直樹さん(仮名・44歳)から感謝の電話を受け、直人さん(仮名・72歳)と妻の恵子さん(仮名・70歳)は顔を見合わせ、喜びました。
直人さんは70歳まで勤め上げた元会社員で、現在の年金受給額は夫婦合わせて月約22万円。自宅(一戸建て)の住宅ローンは完済しており、預貯金は約2,500万円ありました。極端な贅沢はできないものの、老後資金としては十分な蓄えがあると考えていました。
直人さん夫婦には2人の子どもがいます。近所に住む長男一家と、車で1時間ほどの街に住む次男(41歳)一家です。
4年前、長男の長男(直人さんにとっての孫)が首都圏の難関私立中高一貫校に合格しました。当時、直人さんは金融機関のセミナーで「教育資金の一括贈与」の話を聞き、長男夫婦の負担を少しでも減らしてやりたいと考えました。
「孫が夢に向かって頑張るなら、応援してやりたい」
直人さんは教育資金専用の信託口座を開設して、300万円を一括拠出しました。冒頭のように、長男夫婦からは深く感謝され、孫からも「おじいちゃん、ありがとう」と丁寧なお礼の手紙が届きました。直人さんは、自分のお金が家族の未来に役立ったことに、強い満足感を覚えたといいます。
4年後に「次男の孫」も難関校に合格!…したのだが
ところが、それから4年が経過したころ、家族を取り巻く状況が少しずつ変わり始めました。
次は次男の長女(直人さんにとっての2人目の孫)が同じように私立の難関校に合格しました。当然、次男一家は「おじいちゃんからのお祝い」を期待していました。
しかし、直人さん夫婦の懐事情は4年前と同じではありませんでした。この数年で直人さんの持病による通院回数が増加し、医療費の負担が膨らんでいました。さらに、自宅の給湯器交換や、外壁・屋根の大規模修繕が重なり、約300万円の突発的な出費を余儀なくされていたのです。
内閣府が発表した『令和6年度 高齢社会対策総合調査(高齢者の経済生活に関する調査)』によると、現在60歳以上の男女に「今後、優先的にお金を使いたいと考えているもの」について尋ねたところ(複数回答可)、25.8%が「子や孫のための支出(学費、こづかい等)」と答えています。一方で、最も多かった回答は「自分や配偶者あるいはパートナーの医療・介護の費用」で47.5%でした。
減っていく預貯金通帳を見て、直人さんは強い不安を覚えるようになりました。
「これから自分たちの介護や病院代にいくらかかるかわからない。次男のところにも同じように300万円を出すのはとても無理だ……」
悩み抜いた末、直人さんは次男の娘の合格祝いとして、現金30万円を祝儀袋に包んで手渡すことにしました。決して少ない金額ではありません。直人さんとしては「今の自分にできる精一杯の無理のない範囲」のつもりでした。
「長男のところと差がありすぎませんか」
お祝いを渡してから数日後、次男から直人さんの携帯電話に連絡が入りました。電話口の次男の声は、少し震えているような印象に聞こえました。
「お父さん、お祝いありがとう。……でも、一つ聞いてもいいかな。兄さんのところのタカシくんのときは、学費で300万円出したって聞いたんだけど」
直人さんは言葉に詰まりました。次男は続けます。
「うちの子には30万円なんだね。妻も『差がありすぎるのではないか』とショックを受けていて……。言っちゃなんだけどさ、愛情に差があるわけ?」
「そんなつもりはないんだ。あのときは手元に余裕があったが、今は俺も病気でさ。自分たちの老後資金や医療費のことを考えなきゃならなくて……」
直人さんは必死に事情を説明しましたが、次男夫婦の感情的なしこりを解くことはできませんでした。次男の妻からは「最初から長男ばかり贔屓していた」と決めつけられ、電話は気まずい空気のまま切れてしまいました。
それ以来、定期的に連絡があった次男一家からの訪問は途絶えました。お盆や正月の集まりにも「仕事が忙しい」「子どもの予定がある」と理由をつけて顔を出さなくなり、直人さん夫婦と次男一家の関係は急速に冷え込んでいったのです。
