「10万円は難しいかもしれない」73歳母が初めて断った旅行代
73歳の澄江さん(仮名)は、5年前に夫を亡くし、現在は一人暮らしをしています。年金収入は月約19万円。住宅ローンを完済した自宅で、生活費をやりくりしています。
澄江さんには45歳の息子・直樹さん(仮名)がいます。直樹さんは妻と中学生、小学生の子ども2人との4人暮らし。車で1時間ほどの場所に住んでいます。
澄江さんが毎年楽しみにしていたのは、息子一家との夏の家族旅行でした。
「夫が元気だった頃から、毎年みんなで温泉に行っていたんです。孫たちが小さい頃は、旅行先で一緒に遊ぶのが楽しみでした」
旅行は毎年1泊2日。宿泊先は直樹さんが探し、澄江さんが費用の一部を負担するのが習慣になっていました。
「最初は、孫たちの分くらいは出してあげようと思ったんです。それが、いつの間にか毎年10万円を渡すようになっていました」
宿泊費や交通費など、旅行全体の費用は20万円前後。澄江さんが半分ほどを負担し、残りを息子夫婦が支払っていたそうです。
夫が亡くなったあとも、その習慣は変わりませんでした。
ただ、澄江さんは最近、旅行費用を負担することに少しずつ抵抗を感じるようになっていました。
「年金だけの生活になって、家の修理や自分の通院にもお金がかかるようになったんです」
昨年は給湯器の交換に約25万円を支払い、今年も屋根の補修を検討しています。生活に困窮しているわけではありませんが、預貯金を取り崩す機会が増えていました。
そんな春先、直樹さんから電話がかかってきます。
「今年の旅行なんだけど、去年と同じくらい出してもらえる?」
澄江さんは、少し迷ってから答えました。
「今年は家の修理もあるから、10万円は難しいかもしれない。自分の宿泊費だけ払う形でもいいかしら」
すると、直樹さんは困ったような声を出しました。
「えっ、もうそのつもりで宿を探してたんだけど」
「でも、毎年同じだけ出せるとは限らないでしょう?」
直樹さんは、宿泊費が上がっていることや、子どもたちの教育費がかかることを説明しました。澄江さんも息子一家の事情は理解していましたが、だからといって、今年も10万円を出すとは言えませんでした。
「それなら、もう少し安い宿にしてもいいんじゃない?」
その言葉に、直樹さんの口調が変わりました。
「お金を出せないなら、来なくていいよ。こっちで予定を考え直すから」
澄江さんは、返す言葉が見つかりませんでした。
