「あなたの退職を待っていた」妻が一人暮らしを決めた理由
由美子さんが別居を考え始めたのは、約2年前のことでした。当時正弘さんは仕事で忙しく、帰宅後は食事を済ませるとテレビを見て過ごすことがほとんどでした。
由美子さんが友人との旅行を相談しても、「そんなに出かける必要があるのか」と言われ、パートの勤務日を増やしたいと話したときも、家事に支障が出ることを心配されたといいます。
「あなたは悪気なく言っていたんでしょうけど、私が何か決めようとすると、いつも先に意見を言うのよ」
由美子さんは、退職後に夫が毎日家にいる生活を想像するうち、自分の時間がなくなるのではないかと不安になったそうです。
「旅行に行こうって言ってくれたのはうれしかった。でも、どこへ行きたいか、私には聞かなかったでしょう?」
正弘さんは言葉に詰まりました。
確かに、退職後の計画は自分から提案することが多く、妻の希望を詳しく聞いたことはありませんでした。
厚生労働省『令和6年(2024)人口動態統計月報年計(概数)の概況』によると、2024年の離婚件数18万5,895組のうち、同居期間20年以上の夫婦は4万686組でした。長年連れ添った夫婦が婚姻関係を解消するケースも、一定数みられます。
もっとも由美子さんが希望しているのは、今すぐの離婚ではありません。
「半年くらい、自分のペースで暮らしてみたいの。これからどうしたいか、その間に考えたい」
マンションの契約はまだ済ませておらず、申込後に審査を受けている段階でした。
正弘さんは、家賃や生活費のことも気になりました。
「別々に暮らしたら、お金も余計にかかるだろう」
由美子さんは、これまでのパート収入から貯めたお金を当面の費用に充てるつもりだと説明しました。ただし、今後の生活費の分担については、夫婦で相談したいといいます。
正弘さんは初めて、妻が自分とは別に生活の計画を立てていたことを知りました。
「退職金も貯蓄もあるから、これからは安心だと思っていました。でも、妻がどう暮らしたいのか、考えていなかったんですね」
数日後、夫婦は改めて話し合い、由美子さんが希望する半年間の別居を認めることにしました。生活費の負担や連絡の取り方についても、今後具体的に決めていく予定です。
「寂しくないと言えば嘘になります。でも、無理に引き留めても、妻の気持ちは変わらないと思いました」
正弘さんは現在、退職後に始められる趣味や地域の活動を探しています。
退職は、夫婦の生活時間が大きく変わる節目です。経済的な準備に加え、家事の分担や自由な時間の使い方、互いに望む暮らしについて話し合っておくことが大切でしょう。長年一緒に暮らしてきた夫婦でも、これからの生活に対する希望を言葉にして確かめる機会が必要です。
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