「声を聞きたかっただけ」77歳母が続けていた娘への電話
77歳の澄子さん(仮名)は、地方都市の持ち家で一人暮らしをしています。夫を亡くし、現在の年金収入は月15万円。生活に大きな不自由はなく、近所の友人と買い物に出かけることもあります。
一人娘の真理さん(仮名)は48歳。夫と高校生の息子とともに、車で1時間ほど離れた街に住んでいます。
澄子さんが娘に電話をかけるようになったのは、夫を亡くしてからのことでした。
「昔は夫と夕飯を食べながら、その日にあったことを話していました。でも、一人になると、ちょっとした話をする相手がいなくて」
最初は週に1、2回程度でしたが、いつの間にか電話をかける回数が増えていきました。
「今日はスーパーで安い魚があったのよ」「テレビで面白い番組を見たんだけどね」
特別な用事があるわけではありません。娘の声を聞き、少し世間話ができればそれで満足だったといいます。
ところが真理さんはフルタイムで働いており、帰宅後も夕食の支度や家事に追われていました。
「今ちょっと忙しいから、またね」
そう言われて電話を切ることもありましたが、澄子さんはあまり気にしていませんでした。
「忙しいのは分かっていました。でも、5分くらいなら話せるだろうと思っていたんです」
ある日、真理さんから「今週末、少し話したいことがある」と連絡が入りました。
日曜日、実家を訪れた娘は、スマートフォンの画面を母親に見せました。
「お母さん、これ見て。先月、お母さんから何回電話があったと思う?」
画面には、澄子さんからの着信履歴が並んでいました。その数、1ヵ月で30回。
「そんなにかけていたかしら……」
澄子さん自身、ほぼ毎日電話をしているという自覚はありませんでした。真理さんはためらいながら話し始めました。
「仕事が終わって、買い物して、夕飯を作っているときに電話が来るでしょう。出られないと、またかかってくることもあるし」
実際、電話に出られなかった日の夜に、澄子さんが再びかけ直すこともありました。
「何かあったのかと思って折り返したら、テレビの話だったりする。急ぎじゃないなら、あとでいいでしょう?」
娘の言葉に、澄子さんは黙り込んでしまいました。
「迷惑だったなんて、知らなかった……」
