「ここなら理想の老後を過ごせる」庭付き古民家で始めた新生活
65歳の隆夫さん(仮名)は、長年勤めた会社を退職したことを機に、同い年の妻・恵子さん(仮名)と地方への移住を決めました。
夫婦の年金収入は合わせて月約22万円。貯蓄は約3,000万円あり、住宅ローンも完済していました。
「退職したら、自然の中でのんびり暮らしたい。ずっとそう思っていたんです」
隆夫さんが希望したのは、庭のある古民家でした。家庭菜園で野菜を育て、休日には近くの山を歩く。会社勤めをしていたころから、そんな生活に憧れていたといいます。
恵子さんも、最初は前向きでした。
「私も都会の慌ただしさから離れたいと思っていました。庭に花を植えたり、静かな場所で読書をしたりするのもいいなって」
夫婦は何度か現地を訪れ、築50年ほどの木造住宅を購入しました。
購入価格は約650万円。水回りの改修や屋根の補修、引っ越し費用などを含めると、移住にかかった費用は約1,100万円でした。
以前住んでいたマンションは売却し、その代金は今後の生活資金として確保しました。
移住先は山あいの集落で、最寄りのスーパーまでは車で約20分。病院や駅へ行くにも車が必要です。
「不便なのは分かっていました。でも、車があるし、何とかなると思っていたんです」
移住して最初の1年は、充実した毎日でした。
隆夫さんは朝から庭に出て、畑を耕したり、伸びた枝を切ったり。恵子さんも花壇を作り、季節の花を育てることを楽しんでいました。
近所の人から野菜を分けてもらうこともあり、都会では経験しなかった交流が生まれます。
「こんな暮らしがしたかったんだよ」
隆夫さんは、何度もそう口にしていました。
ところが移住から2年目に入ったころ、恵子さんの気持ちに変化が表れ始めます。きっかけは、以前住んでいた街の友人から届いた食事会の誘いでした。
「久しぶりにみんなで集まるんだけど、来られない?」
行きたい気持ちはあったものの、電車とバスを乗り継ぐと片道3時間以上。日帰りでは慌ただしく、結局断ることにしました。
その後も友人たちの集まりに参加できないことが続き、恵子さんは次第に寂しさを感じるようになったといいます。
「庭仕事も楽しいけれど、毎日それだけでは物足りなくなってきたんです」
