営業手当まで残業代の計算の基礎に…12人で約4,050万円の試算も
営業手当が固定残業代として認められない場合、その手当は残業代を支払ったことにはならず、通常の労働時間に対する賃金として扱われたうえで、残業代を計算し直すことになります。
たとえば、月給30万円(基本給25万円+営業手当5万円)の営業社員が、毎月40時間の残業をしていたとします(1か月の所定労働時間を160時間として計算)。
固定残業代として認められないと、払ってきたつもりの営業手当は、残業代を払ったことになりません。そのうえ、残業代の単価を計算する基礎にも入ります。
基本給の25万円ではなく、営業手当を含めた30万円をもとに計算するため、単価は1時間あたり約2,344円。40時間分の未払いは、月約9万4,000円になります。
同じ給与体系で働く社員であれば、営業手当についての法的な評価も同じになる可能性が高いといえます。残業代は、退職した社員だけでなく、在職中の社員も請求できます。
残業代などの賃金を請求できる期間(時効)は、当分の間、3年とされています(労働基準法115条、附則143条)。
3年分さかのぼると、1人あたり約338万円。営業社員12人全員なら、約4,050万円にのぼります。
裁判で未払いが認められると、未払いの残業代に加えて、それと同じ額までの付加金の支払いを命じられることもあります(労働基準法114条)。
固定残業代で最低限そろえたい3つ
今回のような申し入れへの対応は、社員ごとの事情によって進め方が大きく変わります。中島社長の会社でも、弁護士などの専門家と早めに連携して進めることになるでしょう。そのうえで、同じことを繰り返さないための見直しに取りかかります。
今回のようなトラブルを防ぐためには、先ほどの条件を満たせるよう、固定残業代の制度を次のように作り直しておくとよいでしょう。
1. 基本給と区別できるようにする
何時間分の残業代で、いくらなのかを、基本給と分けて雇用契約書と賃金規程に書き、給与明細でも分けて表示する
2. 残業の対価だとわかるようにする
手当の名前は営業手当のままでも問題ないが、残業代として払う手当であることを書面に書き、社員に説明する
3. 残業時間の実態と合わせる
時間数を長くしすぎない(目安は36協定の原則の上限である月45時間まで)。決めた時間を超えた分は、毎月支払う
現在の給与を組み替える場合は、社員に不利益となることがあるため、一人ひとりに丁寧に説明して同意を得ます。
固定残業代とは、残業代を「あらかじめ支払っておく仕組み」
固定残業代は、残業代を払わなくてよくなる仕組みではなく、あらかじめ支払っておく仕組みです。
営業手当を払っているから大丈夫と思っている経営者は、まず自社の契約書とタイムカードを並べて確認してみてください。
桐生 由紀
Authense 社会保険労務士法人 代表
社会保険労務士
