社会保険料を避けて“業務委託”を選んだ43歳社長の判断
菊池社長(仮名・43歳)は、都内でBtoB向けSaaSを提供するベンチャー企業を経営しています。創業7年目となる同社の従業員数は18名。創業以来、菊池社長はずっと採用に苦しんできました。
「営業を1人増やしたい。でも、正社員で採ると社会保険料の会社負担が乗るし、成果が出なかったときに簡単には辞めてもらえない」
そこで選んだのが、業務委託契約でした。菊池社長は、3年前に知人の紹介で出会った佐野さん(仮名・34歳)と月額45万円の営業代行契約を結びます。独立して間もない佐野さんにとっても、固定で月45万円がもらえるのは魅力的な条件でした。
「お互いに気持ちよく、対等なパートナーとしてやっていこう」
菊池社長は本気でそう思っていました。ただ、始まってみると業務の任せ方は少しずつ変わっていきます。
朝9時30分の朝会に毎日参加してもらう。日中はチャットツールに常駐し、返信は30分以内。日報は毎日18時30分までに提出。訪問先は社長が指示し、商談資料もトークスクリプトも会社が用意したものを使ってもらう――。佐野さんは他社の仕事を受けている様子はなく、繁忙期は帰社後の報告作業で21時を過ぎ、土曜日に商談が入る月もありました。
報酬は契約件数にかかわらず毎月45万円で、菊池社長は売れない月も満額を支払い続けていました。
「彼をうちのメンバーとして扱っているつもりだった。それが誠意だと思っていたんです」
1ヶ月前に業務委託契約の終了を告知
順調だったのは2年半ほどで、その後は主要顧客の解約が続き、資金繰りが厳しくなってきました。3年目の冬、菊池社長は佐野さんに契約終了を伝えます。
「申し訳ない。来月末で契約を終わりにさせてほしい。業務委託だから、1ヶ月前に言えば問題ないよね」
菊池社長の言葉に、佐野さんは黙ってうなずきました。ところがその1ヶ月後、菊池社長のもとに内容証明郵便が届きます。差出人は佐野さんの代理人でした。
書面には、「本件契約は実質的に労働契約であり、契約終了は解雇にあたるため無効である」という主張と、3年分の未払い残業代を請求する旨が記されていました。月60時間前後の時間外労働を前提に積み上げられた金額は、およそ700万円に上ります。
「業務委託ですよ? 契約書もある。ハンコも押してもらっている。なぜこんなことになるんですか」
