「営業手当を払えば残業代はいらない」創業期から続く給与の決め方
中島さん(仮名・54歳)は、社員約45人の住宅リフォーム会社の社長をしています。創業から15年、地域の工務店と連携しながらリフォームの依頼を着実に増やしてきました。
営業社員は12人。給与は「基本給+営業手当」という体系です。
「営業は外回りが多いから、営業手当を払って残業代の代わりにしておけばいい」
創業期に同業の社長から聞いたこの考え方を、中島社長はずっと正しいと思い込んでいました。
社員にも「営業手当は残業代の代わりだから」と口では伝えてきました。ところが、雇用契約書には「営業手当」と金額が書かれているだけ。残業代として支払う趣旨も、何時間分なのかも記載されていません。賃金規程にも定めはありませんでした。
退職するエース営業が差し出した、「12人連名」の申し入れ書
そんな中、入社5年目のエース営業、木村さん(仮名・34歳)が退職を申し出ます。木村さんには妻と保育園に通う子どもがいて、家族との時間を増やしたいというのが理由でした。
退職前の最後の面談で、木村さんは1枚の書類を中島社長に差し出します。
「辞める前に、これまでの残業代を払っていただけませんか」
書類の表題は「残業代の支払いについての申し入れ書」。そこには、木村さんがまとめた営業社員12人全員の名前が並んでいました。
「営業手当に残業代は入っているだろう」
中島社長が思わず言い返すと、木村さんはさらに反論しました。
「残業代の代わりだとは聞いていました。でも、何時間分なのか、契約書のどこにも書いていません。それを超えて働いた分も、一度も払われていません。帰りが遅い日が続いていたことは、タイムカードに全部残っています。私だけではありません。営業は全員、同じ給与体系で働いてきました」
社員の出退勤はタイムカードで記録していましたが、営業手当を超える残業代を支払ったことは一度もありませんでした。
目の前の申し入れ書には、木村さんだけでなく、明日からも一緒に働く11人の名前も並んでいます。突然の出来事に、中島社長は言葉を失いました。
営業手当は残業代として認められるのか
今回の事例では、営業手当が固定残業代として認められるかが重要な争点となります。
固定残業代が残業代の支払いとして認められるには、次の2つがそろっていることが必要です。
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給与のうち、通常の労働時間に対する賃金の部分と、残業代(割増賃金)の部分とをはっきり区別できること
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その手当が、残業の対価として支払われていること
2つ目の「残業の対価として支払われているかどうか」は、次のような事情をふまえて判断されます。
- 雇用契約書や賃金規程にはどう書かれているか
- 手当や残業代について、会社が社員にどう説明していたか
- 実際の残業時間などの勤務状況とかけ離れていないか
今回のケースでは、「残業代の代わり」と口頭で伝えてはいたものの、何時間分の残業代にあたるのかを雇用契約書にも賃金規程にも書いておらず、実際の残業が営業手当を超えても差額を払ったことがありませんでした。
こうした事情からすると、固定残業代として認められない可能性が高いといえます。
