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いま「給付付き税額控除」が注目される理由は?
――9月15日の大綱では、1%への消費税率引き下げだけでなく、その先の所得に連動した給付も示されました。今回の政策をどう捉えればよいのでしょうか。
矢内先生(以下、矢内):
重要なのは、2027年4月からの「1%」だけを見るのではなく、その後の制度まで含めて考えることです。
給付付き税額控除は、税額から一定額を差し引く「税額控除」と、控除しきれない部分を現金などで給付する仕組みを組み合わせた制度です。
所得税を十分に納めている人には税額控除として効果が及び、それだけでは控除しきれない人には給付という形で支援を行うことができます。この仕組みを使えば、所得などに応じて支援の大きさを変えることが可能になります。
政府は2029年度から「所得に連動したきめ細かな給付」を本格導入する方向を示しています。今後はどの所得を基準にするのか、誰を対象にするのか、所得に応じて給付額をどう変えるのかといった点が具体的な論点になります。
「食料品1%」と「所得に応じた給付」は何が違う?
――食料品の消費税を1%にすることと、所得に連動して給付することには、どのような違いがありますか。
矢内:
食料品消費税を1%に引き下げれば、基本的には食料品を購入する人に幅広く影響します。
一方、所得に連動した給付では、所得などを基準として対象者や給付額を変えることができます。
つまり、両者は同じ「負担軽減」でも、制度の仕組みが異なります。
今回の大綱では、2027年4月から2年間の消費税率引き下げに加えて、2027年度には「就業者負担軽減支援金」を導入し、2029年度からは所得に連動したきめ細かな給付を本格導入する方向が示されています。
したがって、今後の議論では、一律的な減税と、所得に応じた給付をどのように組み合わせるのかが重要になります。物価高への対応と、所得再分配の仕組みを一つの制度だけで解決するのではなく、段階的に組み合わせようとしていることです。
「所得」をどう把握するのか
――所得に応じて給付する場合、まず「所得」を正確に把握する必要がありますね。
矢内:
そこが制度設計上の大きな課題です。給付制度を設計するうえで非常に難しいところです。
給与所得だけを基準にするのであれば比較的分かりやすいのですが、実際には事業所得、不動産所得、金融所得など、さまざまな所得があります。
株式の配当や譲渡益などについても、どこまで所得判定に含めるのかという問題があります。NISA、特定口座、申告分離課税、確定申告不要制度など、金融所得には複数の仕組みが存在するためです。
給付の判定にあたって、こうした所得をどこまで捕捉するのか。これは非常に重要な論点になります。
単純に「所得が一定額以下なら給付する」というだけでは、制度として十分ではありません。
「本人の所得」か「世帯の所得」か
――所得を判定するときには、個人単位なのか、世帯単位なのかという問題もありますね。
矢内:
その通りです。
たとえば夫婦の一方だけに所得がある場合、本人の所得だけを見るのか、世帯全体の所得を見るのかによって、給付の対象になるかどうかが変わります。
子どもの人数など、家族構成を給付額に反映させるのかという問題もあります。
つまり、制度を設計する際には「誰の所得を見るのか」という基本的な定義から決めなければなりません。
所得の基準を細かくすればするほど、よりきめ細かな給付が可能になる一方、制度は複雑になります。公平性と制度の分かりやすさ、行政コストをどう両立させるのかが課題になります。
国と地方の情報をどうつなぐのか
――給付対象者を判定するためには、行政が持つ所得情報などを活用することになります。
矢内:
ここも重要なポイントです。
所得に関する情報は、国だけが一元的に持っているわけではありません。
給与所得者であれば源泉徴収票、個人事業主であれば確定申告など、さまざまな情報があります。また、住民税については地方自治体が関係します。
したがって、給付制度を構築するには、国と地方自治体の情報をどのように連携させるのか、誰が対象者を判定し、誰が給付事務を担うのかという行政実務の問題も出てきます。
制度を作る側からすれば、単に税制の問題ではありません。情報システムや自治体の事務負担まで含めた設計が必要になります。
過去の「給付」や「定額減税」から何が分かる?
――日本では、これまでも給付や減税による家計支援が行われてきました。過去の給付や定額減税から学べることはありますか?
矢内:
あります。
2020年には1人10万円の特別定額給付金が実施され、2024年には所得税3万円、住民税1万円の定額減税が行われました。
2024年の定額減税では、減税だけでは支援が届かない層に対して補足給付金が併用されました。
こうした政策を見ると、減税と給付を組み合わせることの難しさが分かります。制度の対象者をどう判定するのか、自治体の事務をどうするのか、制度を実施した結果、実際にどの程度の効果があったのかをどう検証するのか――。
政策は実施して終わりではなく、その後の検証まで必要です。
2027年の「1%」は何を検証すべきか
――2027年4月からの1%への引き下げが実現した場合、どのような点を検証すべきでしょうか。
矢内:
まず、税率引き下げが実際の価格にどの程度反映されたのかを見る必要があります。
税率が下がっても、原材料費や物流費、人件費などが上昇すれば、消費者が実感する価格低下は異なる可能性があります。
また、減税による負担軽減がどの所得層にどの程度届いたのかも重要です。
さらに、事業者側のシステム改修や事務負担がどの程度だったのか、税収への影響がどうだったのかも検証する必要があります。
こうした実績を確認したうえで、2029年度からの所得に連動した給付をどのように設計するのかを考えることになります。
「1%」の先にある制度設計が重要になる
――最後に、今回の1%への引き下げを考えるうえで、何がポイントになるでしょうか。
矢内:
今回の政策を「消費税1%」だけで捉えると、全体像を見失う可能性があります。
2027年4月からの1%への引き下げ、2027年度の「就業者負担軽減支援金」、そして2029年度からの所得に連動したきめ細かな給付。これらを一連の流れとして見る必要があります。
特に2029年度に向けては、所得をどう把握するのか、金融所得をどう扱うのか、個人と世帯のどちらを基準にするのか、国と地方の情報をどう連携するのかといった具体的な制度設計が焦点になります。
給付をきめ細かくしようとすればするほど制度は複雑になり、行政コストも増えます。一方で、簡素な制度にすれば、所得や家族構成などに応じた細かな対応は難しくなります。
これからの議論では「減税か給付か」という二者択一ではなく、何を目的として、誰に、どの程度の支援を行うのか。そして、そのためにどこまで複雑な制度を構築するのかを考えることが重要です。
「1%」は一つの政策ですが、その先にある給付制度まで含めて見ることで、今回の税制改革が目指している方向が見えてきます。

