前回は、地域通貨と法定通貨を「交換可能」にする意義について説明しました。今回は、アメリカ、スイスの例から「地域通貨の可能性」を見ていきましょう。

かつて地域通貨によって地方創生を実現したアメリカ

地域経済の活性化や地域コミュニティの活性化を目的として、海外でもいろいろな地域通貨が発行されましたし、今も発行されています。

 

タイムダラーの他にも有名なものとして、LETS(カナダ・ドイツ・フランス)、イサカアワー(US)、カナダドル(カナダ)、ヴェール(ドイツ)、ヴェルグル(オーストリア)、REGIO(ドイツ)などがあります。

 

各通貨の歴史や詳細を紹介することは本書の主旨ではありませんので、ここでは省きたいと思います。興味がある人は地域通貨の専門書籍や論文などを参考にしてください。

 

ただ、数ある地域通貨の中で、地域通貨によって地方創生を実現するという点で現代の私たちにとって大変示唆的だと感じる好例が二つあります。

 

一つはアメリカの「スクリップ」です。1930年代のアメリカは大恐慌の時代で、それまで信じられていたお金が信用を失い、社会は大混乱を極めました。しかし、そこに人がいる限り需要も供給も確実に存在しました。そこで人々は相互支援・互酬の仕組みとしてスクリップ(仮証書)を考案し、通貨の代わりとして活用したのです。

 

この時代だけで数百種類ものスクリップが発行されました。スクリップは交換を保証する広義の地域通貨で、発行者は州政府や自治体、企業や小売業、商工会議所、経営者団体など多岐にわたります。

 

成功したものがあれば、普及しなかったり信用破たんしたりしたものなど失敗したものもありましたが、少なくともその時代の人々が日常生活に必要なものを入手する手段として、地域通貨は自然発生的に、むしろ必然的に生まれたのです。

 

この歴史から学べることは、仮に法定通貨が破たんし機能しなくなったとしても、人々は地域通貨を発行することによって自分たちの身近な経済を回せるということです。

銀行法で認められ、融資の機能も持つスイスの「WIR」

もう一つの例は、スイスの「WIR(ヴィア)」です。これは1934年から始まったサービスで、紙幣ではなく、カードや小切手のように使用されています。

 

スイス銀行法に基づいて銀行免許を取得しているのが大きな特徴で、銀行という形をとっていることから、預金も預かりますし、中小企業への融資も行っています。利用できるのは会員となっている中小企業で、スイス国内の約6万社の中小企業が会員になり、そのうちの3分の2ほどが継続利用しているといわれています。

 

WIRは法定通貨であるスイスフランに交換することはできません。ただし、等価で扱われます。すなわち1スイスフラン=1WIRです。

 

スイスでWIRが普及をしている理由は二つ考えられます。一つは融資を受ける際にスイスフランよりも低利率であるということ。もう一つは地元事業者を保護する役割があることです。

 

例えば公共事業の入札を行う場合に、支払い額の一部にWIRを使うことがあります。70%をスイスフランで払い、残り30%をWIRで支払うといったケースです。すると、スイス以外の業者は入札への参加が難しくなり、逆に国内の事業者には有利になります。このような活用方法によって地域経済の活性化につなげているわけです。

 

WIRのように銀行法で認められたり、融資の機能を持ったりする例は珍しく、他の国・地域が真似するという点から見るとハードルは高いといえます。

 

しかし、世界で最も金融事業が発達している国の一つであるスイスが、スイスフランを補完するWIRを認め、地域経済の保護と活性化を目指しているという点は注目したいところです。法定通貨は便利ですが万能ではありません。

 

WIRの普及は、法定通貨では解決が難しい問題や課題を、もしかしたら地域通貨が解決できるかもしれないという可能性を示唆していると思います。

本連載は、2016年9月9日刊行の書籍『地域通貨で実現する 地方創生』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

地域通貨で実現する 地方創生

地域通貨で実現する 地方創生

納村 哲二

幻冬舎メディアコンサルティング

本書は、地域活性化に興味のある人や自治体・企業・団体に向けて、地域活性化のための1つの有効な手段と思われる「地域通貨」を軸にした、事例紹介を含めた参考書・指南書です。 地域活性化は都市・地方の双方にとって喫緊の…

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