「目的・範囲・目標」を実現可能なものに
前回の続きです。
大変そうだ、成功できるだろうかなどと考え、躊躇したり二の足を踏んだりするのは当然だと思います。
そこで考えてほしいのが、地域通貨導入のハードルを下げることです。その方法を二つご紹介しましょう。
一つ目は「目的・範囲・目標」のハードルを下げることです。地域通貨を導入する場合、何のために(目的)、どの範囲を対象とし(範囲)、何を実現するのか(目標)を明確化するのは重要なことです。特に目標については目標となる数値(KPI)を設定した方が良いでしょう。ただ、最初から大きな成果が得られるわけではありません。あらゆる煙突を結ぶのはあくまでも最終型であり、先行例の地域でもまだその過程で奮闘しているのが現状です。地域によって人員や予算の制限もあります。
ですから、最初から大風呂敷を広げる必要はありません。むしろ「まずは、この目的を果たす、この範囲に絞る、この目標を達成する」と決め、現実的にスタートする方が、効果が実感しやすく、着実に通貨を普及・浸透させていくことができると思います。
例えば横浜市の介護ボランティアは目的や範囲を絞っているケースといえます。しかも、介護に限定しながら、その中では400以上もの福祉・介護施設が参加し、横浜市内のほぼすべての福祉関連施設が含まれているという点は大きな成果です。
現状はまだ「介護とボランティアのポイント」ですが、このポイントが段階的であっても他の福祉や健康などの行政サービスに横展開されれば「健康と福祉」を中心とした目的特化型の地域通貨に発展する可能性はあると思います。連携する煙突の数や、通貨・ポイントの流通量といった規模の大小も大切ではあるのですが、絞り込んだ目的・範囲内で「どこでも貯まる」という「密度」からアプローチすることも大切です。
「トライアル期間」を設定する
ハードルを下げるためのもう一つの方法は、「トライアル期間を設定する」ことです。
例えば苫小牧のとまチョップポイントは、2016年度から3年間という期間を設定して事業としての効果を検証しています。このような期間をあらかじめ設定しておくことも、導入する際の心理的な障壁を下げる有効な方法だと私は思います。
地域通貨は多くの人にとって初めての試みですので、導入・普及の過程で想定通りにいかないこともあるはずです。最初から成功することを前提として大きな予算をかけるのはリスクを伴います。まずはトライアルを行い、必要に応じて修正を重ねていく方法であれば、そういったリスクを抑えることができるはずです。特に自治体が積極的に関わる場合、市長の交代や担当者の人事異動などで地域通貨事業との関わり方が変わる可能性も考えられます。大々的に導入したにもかかわらず、短期間で制度が中止になってしまえば、住民も参加する組織や企業も困惑します。その点でも、トライアルで小さくても確実な実績を積み重ねていく方が良いといえます。