地域のために「いいこと」をすれば貯まる地域通貨
いいことで貯まり、いいことに使えるという地域通貨の特徴は、法定通貨での円にはないものです。そのため、経済効果に特化した円との比較で、コミュニティ醸成につながる地域通貨は「温かいお金」と表現されることもあります。
また、円は基本的には働いた報酬として得られますが、地域通貨は「いいこと」をすればよいわけですので、必ずしも働かなくても貯めることが可能です。
地域内には、退職したり引退した高齢者がいます。主婦の中にも時間の都合で働きに出られない人がいるでしょうし、子供も働けません。円は誰もが使うことができる通貨ですが、誰もが稼げるわけではありません。
その点、地域通貨はより多くの人が手に入れることができます。体育館の利用やウォーキング、ボランティア活動の例などからもわかる通り、自分ができることの範囲が広く、より多くの人が通貨を貯めたり使ったりできるのです。
職種や業種、経験などを問われる仕事と比べて、「いいこと」は範囲が広いというのも重要です。難しい職務はこなせなくても、ちょっとしたいいことならできるでしょう。その報酬として地域通貨を手にすることで、自分もまだまだ地域に貢献できると実感し、その結果として生活にはりが出るといった効果も期待できます。
多様な組織が発行者になれる、門戸の広さも魅力
一方、貯める側ではなく、地域通貨を発行する側の門戸も広いといえます。前述の通り、基本的に誰もが発行者になれるわけですので、自治体はもちろん、金融機関や電気・ガス会社・ケーブルTV会社など地元企業、商工会や商店街組織、地域スポーツなどあらゆる企業・団体が地域通貨の仕組みに参加することができるのです。
一言で言えば、住民と自治体・企業など、地域のステークホルダー全員が地域通貨システムに参加できるということです。また、参加者が増えることが地域通貨の成功の条件ですので、多様な組織が発行者になれるという点でも、門戸の広さは大切といえます。
制度がさらに発展していけば、将来的には地域通貨を持つ人同士で支援し、通貨をやり取りすることもできるかもしれません。いわゆる互酬の仕組みで、コミュニティ内のつながりによってお互いが助け合うということです。
実はこのような関係性は、「互酬」や「結(ゆい)」といったコミュニティという意識があった頃には普通に行われていました。例えば、近所の人に子供の面倒を見てもらったり、近隣の公園の清掃を住民が交代で行ったりといったことです。
しかし、今はこのようなちょっとしたことも、基本的には行政サービスに頼っています。そこで発生するコストとして税金を使い、行政の財政を圧迫する一因となっています。
行政サービスを通じて雇用を生んでいるのだからいいのではないか、という意見もあるかと思います。しかし、税金を使う際には、まず無駄を省かなければなりません。
効率的に税金を使ったか、効果は最大化できたかといった評価は、その先で検討するものです。地域通貨が普及し、互酬によって行政サービスに頼らないケースが徐々にでも増えていけば行政の負担もそれに応じて減っていきます。
行政依存を少しでも脱却していけば、コミュニティを醸成しつつ、自治体の財政を健全化することもできるのではないでしょうか。財政が良くなれば、必要なサービスを手厚くできます。住みやすい街ができ、人が定着します。
あくまでも仮説ではありますが、地域通貨の有効な導入と活用は、人口流出と財政難に悩む地方の現状を少しでも改善することにも資することにもなると思います。