「元気よ。何も変わらない」電話ではそう話していた母だが…
「母とは週に1回くらい電話していたので、様子は分かっているつもりでした」
そう話すのは、54歳の直樹さん(仮名)です。82歳の母・久美子さん(仮名)は、夫を7年前に亡くしてから地方の戸建てで一人暮らしをしています。
年金は月約13万円。住宅ローンはなく、預貯金もあるため、現在のところ生活費に大きな不安はないといいます。
直樹さんは新幹線で2時間ほど離れた場所に妻と暮らしています。
仕事の都合もあり、実家へ帰るのは年に1、2回程度。今回は予定が合わず、約1年ぶりの帰省となりました。
それでも母とは定期的に電話をしていました。
「ご飯食べてる?」
「食べてるよ」
「買い物は大丈夫?」
「近所のスーパーに行ってるから大丈夫」
久美子さんはいつも「元気よ」「心配しなくていい」と答えます。風邪をひいた、腰が痛いといった話はあっても、生活に困っている様子はありませんでした。
ところが、久しぶりに実家を訪れた直樹さんは、玄関を開けたところで足を止めます。以前は何も置かれていなかった廊下の脇に、段ボールがいくつも積まれていたのです。
「これ、どうしたの?」
「通販で買ったもの。後で片付けようと思って」
玄関には古新聞の束もありました。リビングへ入ると、テーブルには郵便物や薬局の袋、衣類などが置かれています。
いわゆる「ゴミ屋敷」という状態ではありません。ただ、直樹さんが知っている母の家とは明らかに違いました。
「母は昔、かなりきれい好きだったんです。テーブルの上に物を置きっぱなしにするのも嫌がる人でした。だから、散らかっていること自体に驚きました」
久美子さんに尋ねると、「最近ちょっと面倒でね」と笑いました。
通販を利用する機会が増え、段ボールがたまりやすくなったものの、つぶしてまとめ、決められた日に出す作業をつい後回しにしてしまう。古新聞も、以前のようにこまめに片付けなくなっていました。
洗濯や簡単な料理はしています。一方、床の雑巾がけや布団を干す回数は減り、重いものを買うときには通販を利用することが増えていました。
内閣府『令和7年版高齢社会白書』によると、2020年時点で65歳以上人口に占める一人暮らしの割合は男性15.0%、女性22.1%。2050年には男性26.1%、女性29.3%になると推計されています。
一人暮らしを続ける高齢者が増えるなか、直樹さんがその日気になったのは、母が一人で暮らしていることそのものではありませんでした。
「週に一度話していたから、母のことは分かっているつもりでした。でも、電話だけでは気づかなかったことが増えていたんですよね」
