車を使わない1ヵ月で分かったこと…住み替えの“最後の決め手”
博之さんは目の治療を受けることになり、医師の指示に従って一時的に運転を控えることになりました。期間は1ヵ月ほどです。
「たった1ヵ月ですから、最初は何とかなると思っていました」
ところが、最初の週から不便を感じました。
スーパーへはバスで行けますが、時刻表に合わせて家を出なければなりません。まとめ買いをすれば、帰りの荷物も重くなります。
佳代子さんの通院にはタクシーを利用しました。駅へ出るにも、これまでは車で送っていましたが、その日はバスの時間に合わせて予定を組みました。
「車に乗れないだけで、一日の予定がこんなに変わるのかと思いました」
ある日、佳代子さんが買い物から帰ってきて言いました。
「これが1ヵ月じゃなくて、ずっとだったら大変だね」
車を再び運転できるようになってから、夫婦は以前と同じ生活に戻りました。それでも今度は、「80歳になったら考えればいい」とは思えなくなっていました。
「元気なうちに引っ越したほうが、自分たちで家も選べるし、荷物も整理できる。どちらかが運転できなくなってから慌てて探すのは嫌だなと思ったんです」
夫婦は半年ほどかけて物件を探しました。選んだのは、以前住んでいた地域から数駅離れた場所にある中古マンションです。
駅まで徒歩7分。スーパーは徒歩5分ほどで、内科や歯科も近くにあります。以前のような都心ではありませんが、車がなくても日常生活を組み立てられることを優先しました。
もちろん、失うものもあります。
マンションには庭がなく、管理費や修繕積立金も毎月かかります。現在の戸建ても、希望した金額ですぐ売れるとは限りません。
総務省『家計調査報告〔家計収支編〕2025年平均結果』によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯では、実収入は月平均25万4,395円、可処分所得は22万1,544円、消費支出は26万3,979円です。高齢期の住み替えでは、購入代金だけでなく、管理費など住み替え後に継続して発生する費用も含めて検討する必要があります。
佳代子さんは、庭の植物の一部を鉢に植え替えて、新居へ持っていくつもりです。
「ここが嫌になったから出ていくわけじゃないんです。10年近く、本当に楽しかった。でも、これから先の10年を考えたら、今度は歩いて暮らせる場所のほうがいいと思いました」
住みやすい場所の条件は、年齢や生活の仕方によって変わっていきます。現時点で車を運転できる、階段を上れる、庭を管理できるとしても、それを前提にした暮らしを今後も続けるかは考える余地があります。
住み替えを検討する際には、今の生活だけを見るのではなく、車を使わなくなったら買い物や通院をどうするのか、数年後も無理なく生活できそうかを具体的に確かめておくことが大切です。気に入った家を手放す判断も、これからの暮らしを自分たちで選べるうちだからこそできる選択の一つでしょう。
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