「自分がすごく年寄りになった気がした」母が漏らした本音
美智子さんが不満を感じていたのは、職員の対応が悪かったからではありません。むしろ「皆さん親切だった」といいます。
それでも、毎日決まった形で安否を確認される生活に、なかなか慣れることができませんでした。
「今まで何十年も、自分が何時に起きたって誰にも関係なかったでしょう。急に『今日も大丈夫ですね』と確認されるようになって、自分がすごく年寄りになったような気がしたの」
食事にも似た感覚がありました。
食事サービスは希望制でしたが、「せっかくあるから」と入居当初は利用していました。ところが、美智子さんはもともと、その日に食べたいものを自分で作る生活を長く続けています。
「今日はおそばだけでいいと思う日もあるし、急にお刺身を買って帰る日もある。食事が出るのは楽なんだけど、私はまだ自分でやりたかったみたい」
国土交通省によると、サ高住で全入居者に提供する必要があるのは安否確認と生活相談サービスです。食事や介護、家事などについては住宅ごとに提供状況が異なるため、入居前には具体的なサービス内容を確認する必要があります。
浩二さんは、「だったら戻ればいいじゃないか」とは言いませんでした。
一時的に慣れていないだけなのか。それとも、その住まいが本当に合わないのか。母自身もまだ判断できていなかったからです。
「母は『ここを出たい』と言っているわけではなかったんです。ただ、自宅にいたころの自由さが思った以上に恋しかったんでしょうね」
親子は翌週、住宅の担当者にも相談しました。
そこで美智子さんは、食事サービスの利用を減らし、自分で料理する日を増やすことにしました。外出もこれまで通り続け、以前通っていた美容院やスーパーにも足を運びます。
安否確認についても、どのような方法で行われるのかを改めて確認しました。
サ高住では、安否確認・生活相談サービスをすべての入居者に提供することが登録上必要とされています。 そのため、美智子さんが望んだからといって、見守りそのものをなくすことはできません。
それでも、「ここで暮らすなら全部お任せしなければ」と思い込んでいた部分がなくなったことで、気持ちは少し変わったそうです。
入居から数ヵ月。美智子さんは現在もそこで暮らしています。浩二さん宅へ突然やって来ることもなくなりました。
「今でも前の家が一番落ち着くとは言います。でも、『何でもやってもらおう』という考えをやめたみたいです。できることは自分でする。そのほうが母には合っていたんでしょうね」
内閣府『令和7年版高齢社会白書』によると、65歳以上では8割以上が持ち家に暮らしています。長年、自宅で自分の生活を組み立ててきた人にとって、住み替えは住所だけでなく日々の過ごし方が変わる出来事にもなります。
高齢者向け住宅を選ぶ際には、設備や費用、介護が必要になった場合の対応を確認することが欠かせません。そのうえで、食事をどうするのか、外出はどの程度自由なのか、安否確認はどのように行われるのかなど、実際の一日を具体的に想像してみることも重要です。
安心を求めて住み替えるからこそ、本人がこれまで大切にしてきた生活習慣をどの程度続けられるのか。入居後の暮らしまで確かめながら、自分に合った住まいを選ぶ必要があるでしょう。
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