「仕事がしたいわけじゃない」なくなって初めて気づいたもの
退職から1年ほど経ったころ、以前の同僚から電話がありました。近況を話していると、相手が何気なく言いました。
「毎日、何してるの?」
武史さんは「ゴルフしたり、散歩したりだよ」と答えました。しかし電話を切ったあと、その質問が気になったといいます。
「考えてみたら、誰かとまともに話したのが数日ぶりだったんですよ。妻とは話しますけど、それ以外の人とはコンビニで『袋はいりません』と言ったくらいで」
会社員時代は、朝になれば出勤する場所がありました。
同僚にあいさつをし、会議に出て、昼食を食べながら雑談する。武史さんにとっては当たり前すぎて、人とのつながりだと意識したことさえなかったそうです。
一方、退職後に誰かと会うためには、自分から予定を入れなければなりません。
「会社に戻りたいわけじゃないんです。満員電車にも乗りたくないし、毎日8時間働きたいとも思わない。ただ、何曜日の何時にどこへ行く、という予定がある生活はよかったんだなと思いました」
内閣府『令和7年版高齢社会白書』によると、65歳以上で何らかの社会活動に参加した人のうち、生きがいを「十分感じている」または「多少感じている」と答えた割合は84.6%で、いずれの活動にも参加しなかった人より23.0ポイント高くなっています。社会活動への参加と生きがいには関連がみられますが、これだけで因果関係を断定できるものではありません。
武史さんが始めたのは、再就職ではありませんでした。
市の広報誌で見つけた地域のスポーツ施設のボランティアに、月3、4回参加することにしたのです。受付を手伝ったり、イベントの準備をしたりします。
さらに、以前から興味のあった写真講座にも申し込みました。
「予定表に『水曜10時、写真』と書いてあるだけで違うんですよ。その日は朝起きたら着替えて、時間までに家を出る。仕事をしていたころなら当たり前だったことですけどね」
内閣府『令和7年版高齢社会白書』では、65歳以上の35.6%が定期的または不定期に収入を伴う仕事をしているとの調査結果も示されています。また、働く理由は収入だけではなく、「働くのは体によいから、老化を防ぐから」など複数にわたります。
武史さんも、今後は週に数日程度の仕事を探す可能性があるといいます。ただ、「暇だから働かなければ」と急いではいません。
「退職する前は、お金の計算ばかりしていたんです。住宅ローンは終わった、退職金はいくら、毎月いくらあれば暮らせる。それで大丈夫だと思っていました。でも、一日をどう過ごすかまでは考えていなかったんですよね」
定年後の生活を考えるとき、年金や退職金、毎月の生活費を確認することは欠かせません。一方で、仕事を離れることで変わるのは収入だけではありません。
毎週どこへ行くのか、誰と話すのか、何を楽しみに朝起きるのか。仕事を続けるかどうかとは別に、退職後の時間をどう使いたいのかまで考えておくことも、その後の暮らしを組み立てるうえで大切になるでしょう。
【関連記事】
■月20万円もらえるはずが…45歳・サラリーマン「ねんきん定期便」に抱いた違和感。「年金ルール」知らずにそのまま20年…65歳で受け取ることになる年金額に唖然「何かの間違いでは?」
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】
■親が「総額3,000万円」を子・孫の口座にこっそり貯金…家族も知らないのに「税務署」には“バレる”ワケ【税理士が解説】

