還暦と定年のお祝いで帰省…父が明かした「2,000万円」の使い道
父が還暦と定年を迎えたため、久しぶりへ帰ってお祝いでもしようかと考えたAさんは、母に連絡します。妻は仕事の都合でAさんと休みが合わず、「今回は親子水入らずで楽しんできて」と父へのプレゼントとして父のお気に入りの銘柄のお酒を用意して持たせてくれました。弟も少しの時間ならと日にちを合わせてくれたので、母にお願いして父が好きなお寿司屋さんに予約を入れてもらいました。
久しぶりに家族4人で食事をし、近況報告がひと段落したころ、父が話を切り出しました。
「60歳まで頑張って働いてきたから、これからは好きなことをしたい。再雇用でまだ働くし、退職金の2,000万円は、自分の好きなことに使いたい」
Aさんとしては、父の気持ちも一理あると思いつつも、老後資金として貯蓄がいくらあるの知らないので、素直に首を縦に振ることができません。いったいなにに使うつもりなのかと尋ねると、返ってきたのは家族全員が耳を疑うような回答が。
もともと車好きだった父は、「高級外車のオープンカーが欲しい」というのです。有名外車のオープンカーはグレードによって価格に大きな違いがありますが、Aさんの父が欲しがっている上級モデルの新車ともなれば1,500万円程度は掛かります。さらに諸経費や各種オプションを含めると、2,000万円を超えるかもしれません。つまり、退職金はすべて車に消えてしまうことになります。
「退職金をすべて車につぎ込んでしまうと、貯金はいくら残るの?」と不安そうにAさんは父に尋ねます。父はこれまで、自分の給与から生活費を母に渡していましたが、残ったお金は飲み会やゴルフなどで使ってしまうことが多かったそうです。「1,000万円くらいかな」と父は笑います。
商社の部長まで上り詰めた父親の蓄えとして、家族が想像していた金額よりはるかに少なかったため、Aさんたちは驚いてしまいました。
弟も「いや、外車のオープンカーってさ、若くてかっこいい人が乗っているからかっこいいのであって、老人がオープンカーから出てきても恥ずかしいって」と父を止めます。
父の思慮に欠ける発言に対し、Aさんはショックを受け、「父さん、考え直してくれよ!」と思わず声に出してしまいました。しかし父は、「自分が稼いだお金だから好きにしてもいいはずだ」と譲りません。
公的年金の受給見込み額を試算すると、父の年金は約220万円(月額19万円)。母の年金と合わせると、300万円(月額25万円)となります。日常生活費はなんとか賄えるかもしれませんが、高級車や自宅の維持費を貯蓄から切り崩すとなれば、1,000万円はあっという間に底を突くかもしれません。将来、介護や施設に入るなど、想定外のことが訪れたときのお金は足りなくなってしまう可能性が出てきます。
退職金のように一度に多額のお金が入ってくると気が大きくなってしまいがちです。たしかに退職金は会社に貢献したことへの感謝や労をねぎらう意味合いから慰労金という意味合いもあります。だからといって「自分で好きに使っていいだろう」と誤った使い方をしてしまうと、老後破産の危機に陥る可能性が高まります。老後破産してしまうと、自身だけでなく、配偶者や場合によっては子どもにまで迷惑を掛けてしまうケースも少なくありません。
年金や退職金は、一人ひとり、家族ごとに金額や使い方はさまざまです。老後の生活設計に少しでも不安や疑問がある場合は、取り返しのつかない状況に陥る前に、専門家へ相談してみてはいかがでしょうか。
三藤 桂子
合同会社ミコサポ
代表
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