用途を限定することが実際の消費につながる
地域通貨の最も重要な目的は、「地域内での消費の活性化」です。「円」は、ある意味「便利すぎる」のです。全国どこでも、いつでも、何の目的にも使えるということは、ある限定された地域の活性には不向きだということです。
地域通貨は3つの限定により、円の利便性をあえて犠牲にして、限定的で不便なものにすることで、限定的な地域を活性化しようとするものです。それでは、必要な地域通貨の3つの限定を見ていきましょう。
「地域の限定」は文字通り、利用できる地域を限定することです。市町村での限定かもしれませんし、隣接する市町村を含んで限定する場合もあるかと思いますが、いずれにしても、ある地域に限定するということです。
「期間の限定」は、通貨として利用できる期限を設定するということです。これも法定通貨と大きく異なる点です。というのも、円などは長期間貯めておくことができますから、すぐには消費に向かうとは限りません。
一方、使用可能な期限を設けると、貯めておくと価値がなくなるため、使おうという気持ちになり、消費を促します。経済の活性化は、わかりやすく言えばお金が活発に動くことを意味しますので、貯めておくという機能をなくし、消費するという機能に徹することが大切です。
実はこの考え方は、あらゆるタイプの地域通貨に共通しています。最近では円もマイナス金利の導入によってお金の流動性を高める施策が取られていますが、地域通貨の世界では元々、できるだけ早く使ってもらうために保有期間が長くなるにつれて価値が下がる仕組みが模索されてきました。マイナス金利の性質を持たせることにより、使うためのお金として流通してきたのです。
もっとも、紙ベースでの運用では、一日ごとに価値を減少させることは難しいため、多くの地域通貨は、発行から半年間の有効期間を設定するといった条件を設定しています。有効期間内は価値は減少しませんが、有効期間を過ぎた瞬間に価値がなくなります。
「目的の限定」は、通貨として利用できる用途を限定するということです。例えば子育て費用として1万円を渡す場合、そのお金が必ず子育てのために使われるとは限りません。どのように使われたかをデータなどで捕捉することも極めて難しいでしょう。行政予算で給付している子育て支援のお金などは、この部分が課題です。
「子育てに使ってください」「子育てのために使ってくれるはず」という淡い期待だけですので、実際の使い道は受け取った人が決めることができます。子育て関連の商品やサービスではなくても、商品やサービスの消費に回るならまだしも、ギャンブルに使われてしまったら、子育て支援という本来の目的はまったく果たせなくなります。
だからこそ、地域経済の活性化という目的を着実に達成するためには、例えばこの商品は買えるけれど、この商品は買えない、あの店では使えるけれど、あの店では使えないといったように、目的に応じて用途を限定することが大切です。これは、円のようにどこでも共通で使える通貨では実現が難しく、地域通貨だからこそ果たせる役割です。
通常の現金では「自由に使える点」がリスクに・・・
余談ですが、欧米では生活保護の給付を現金ではなくカード方式で行っています。また、利用場所についても生活必需品が買えるスーパーや雑貨店などに限定するのが一般的で、何を購入したかもデータで管理可能です。これも目的を限定するという考え方に基づいています。
一方の日本は現金給付です。その額は年間1兆円を超え、最近は年金だけで暮らしていけない高齢者の受給が加わり、年々増える傾向にあります。
問題は、この1兆円というお金がどれだけ生活保護という目的のために利用されているか誰も把握できないという点です。このお金の原資は当然ながら国民の血税です。目的が限定できず、自由に使えるということは、ギャンブルで使われたり、貧困ビジネスを展開する反社会勢力の資金源になったりするといった可能性を生み出してしまうのです。
そのようなリスクを抑えることも含めて、地域通貨を地域経済の活性化に結びつけるには、通貨としての機能を限定することが大切です。トリクルダウンが機能しなくなり、経済的な自立が求められる地方にとって、地域通貨は有効なツールになると思います。