「今日はどこまで歩こうか」2DKに移って増えた外出
引っ越しの日、荷物を入れ終えた浩一さんは部屋を見渡して言いました。
「やっぱり狭くなったな」
大きな食器棚やソファは処分し、何年も使っていなかった物も大量に手放しました。
ところが、暮らし始めてみると、不便より先に感じたのは身軽さでした。掃除は短時間で終わります。庭の手入れもありません。
さらに大きかったのが、家の外での変化でした。
由美子さんは歩いて図書館へ行くようになり、その帰りに商店街で買い物をします。浩一さんも車でまとめ買いをする生活から、散歩がてら近所のスーパーへ行く生活に変わりました。
「今日はどこまで歩こうか」
天気のいい日は、そんな会話をして2人で出かけます。
団地内ですれ違う住民と挨拶を交わすようになり、由美子さんは掲示板で知った地域の体操教室にも参加しました。そこで顔見知りができ、終わったあとに数人で喫茶店へ行くこともあります。
浩一さんも、近くの公共施設で開かれている囲碁の集まりに月2回ほど参加するようになりました。
以前の家にいたころ、夫婦の外出といえば車で買い物へ行くか、目的を決めて出かけることがほとんどでした。
「家が広かったころより、外にいる時間は今のほうが長いんですよ」
由美子さんはそう笑います。
もちろん、賃貸住宅に移ったことで、それまでなかった家賃が毎月発生します。夫婦は自宅の売却代金を老後資金として確保し、年金だけで不足する分については、そこから計画的に補うことにしました。
持ち家と賃貸住宅のどちらが老後に適しているかは、家計や住宅の状態、立地によって異なります。住み替えれば必ず生活が便利になるわけでもありません。
それでも、子どもの独立や退職によって暮らし方が変われば、かつて家を選んだときとは必要な条件も変わります。
「家は狭くなりました。でも、人生は広がった感じがするんです」
浩一さんがそう感じるのは、2DKそのものが理想だったからではありません。家の広さよりも、歩いて出かけられる場所や人と接する機会を優先したことで、日々の過ごし方が変わったからです。
長く住んだ家を手放すことだけが老後の選択肢ではありません。一方、住み慣れた家に住み続けることだけが正解でもないでしょう。家族構成や年齢が変わったとき、これからの暮らしに本当に必要な「広さ」と「環境」を改めて考えてみることも、住まいを選ぶ一つの基準になります。
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