(※写真はイメージです/PIXTA)

老後を安心して暮らすため、できるだけ貯蓄を減らしたくないと考える人もいるでしょう。退職後は給与収入がなくなり、医療や介護、住まいの修繕など、この先いくら必要になるのか分からない支出もあります。一方、将来への備えを意識するあまり、今できることまで先送りしてしまうこともあります。

妻の一言で変わったお金の使い方

その晩、正夫さんは久しぶりに退職したころの家計簿を見返しました。65歳のころに約4,500万円あった金融資産は、7年たった現在も約4,000万円残っています。

 

「500万円も減った」と考えていた正夫さんに、久美子さんは言いました。

 

「でも7年暮らして、まだ4,000万円あるんでしょう?」

 

もちろん、この先どのくらいのお金が必要になるかは分かりません。自宅設備の交換や医療・介護など、まとまった支出が発生する可能性もあります。

 

それでも正夫さんは、4,000万円という数字を下回らないこと自体が、いつの間にか目標になっていたことに気づきました。

 

「何のために貯めたんだろうな」

 

その言葉を聞いて、久美子さんは「使うためでもあるんじゃない?」と答えました。

 

夫婦はその年、6泊7日の北海道旅行を予約しました。費用は2人で約25万円。高級ホテルを巡るような旅行ではなく、以前から行きたかった場所をレンタカーで回る計画です。

 

内閣府『令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査』では、60歳以上が今後優先的にお金を使いたいものとして、「自分や配偶者等の医療・介護」が47.5%で最も多い一方、「趣味やレジャー(旅行等)」も32.4%となっています。将来への備えだけでなく、現在の楽しみにお金を使いたいと考える人も一定数います。

 

旅行から戻っても、正夫さん夫婦が急に浪費するようになったわけではありません。

 

今後必要になる生活費や住宅関係の支出を考え、一定額は残しておく。そのうえで、旅行や外食など、元気なうちにしたいことにも予算を振り分けるようにしました。

 

正夫さんは今も月に一度、資産額を確認しています。ただ、以前とは見方が変わったそうです。

 

「前は通帳の数字ばかり気にしていました。減っていなければ安心だった。でも、お金を残すことだけ考えているうちに、自分たちの時間も減っていたんですよね」

 

老後資金をどこまで残し、どこから使うかに、すべての人に共通する正解はありません。年金額や資産、住まい、今後想定される支出によって、必要な備えは異なります。

 

だからこそ、資産額だけを目標にするのではなく、何のために貯めてきたお金なのかを考えることも必要でしょう。将来への備えを確保しながら、今だからできることにいくら使うのか。老後のお金を考えることは、残高を守ることだけではなく、残された時間をどう過ごすかを考えることでもあります。

 

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