「戻ったら負けたみたいだな」夫婦が手放した“終の住処”
「駅の近くに戻ることも考えたほうがいいんじゃない?」
由美子さんがそう切り出したとき、健一さんは素直に賛成できませんでした。
「なんだか、戻ったら負けたみたいだな」
自分たちで選んだ地方移住です。友人たちにも「老後は自然の中で暮らす」と話してきました。それをわずか6年でやめれば、「結局、地方暮らしは無理だった」と認めるような気がしたといいます。
しかし、由美子さんは「今までの6年が失敗になるわけじゃないでしょう」と返しました。
その言葉をきっかけに、2人は物件を探し始めます。条件にしたのは、駅まで徒歩10分以内、スーパーまで徒歩圏内、そして車を使わなくても通院できることでした。
最終的に選んだのは、以前暮らしていた街から数駅離れた場所にある中古の2LDKマンション。駅まで徒歩7分、スーパーは徒歩5分、総合病院へも電車と徒歩で行けます。
地方の一軒家は1,500万円で売却。マンションの購入には2,800万円かかりましたが、6年前に首都圏の自宅を売った際に残していた資金と預貯金を充てました。購入後も預貯金は約3,600万円残っています。
引っ越して数ヵ月後、2人は車も手放しました。
由美子さんが特に変化を感じたのは、日々の買い物です。
以前は「牛乳を買い忘れた」と気づいても車を出していましたが、今は財布だけ持って歩いてスーパーへ行けます。健一さんも電車で一人で出かける機会が増えました。
内閣府の同調査では、高齢者が出かける目的として「近所のスーパーや商店での買い物」が80.4%、「通院」が69.9%となっています。日々の生活を続けるうえで、買い物や通院のしやすさは避けて通れない条件です。
「移住したときは、ここを最後の家にするつもりでした。でも、66歳の自分たちに合う家と、72歳の自分たちに合う家は違ったんですよね」
地方で過ごした6年間を後悔しているわけではありません。庭で採れた野菜を食べ、休日には夫婦で温泉へ出かけた時間は、今でも楽しかった思い出です。
「最初は負けた気がしたけど、無理して住み続けるほうが変だったのかもしれません」
地方移住を続けることにこだわらず、もう一度住まいを選び直した健一さん夫婦。かつて思い描いた「終の住処」に住み続けることより、これからの自分たちが暮らしやすい場所を選ぶことを優先しました。
6年前の移住も、今回の住み替えも、その時々の夫婦に必要だった選択だったと、今は考えているそうです。
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