「ここでずっと暮らすつもりだった」66歳で始めた地方生活
健一さん(仮名・72歳)と妻の由美子さん(仮名・71歳)は、夫婦合わせて月約27万円の年金で暮らしています。
6年前、健一さんが会社員生活を終えたのを機に、長年暮らしていた首都圏のマンションを売却しました。
移住先に選んだのは、都心から電車で2時間ほどの地方都市です。中心駅からは離れているものの、山が近く、車で少し走れば大きな公園や温泉もあります。
中古の一軒家を1,700万円で購入し、約300万円をかけて水回りなどをリフォームしました。
「せっかく仕事を辞めたんだから、今までとは違う場所で暮らしたかったんです」
庭では由美子さんが野菜や花を育て、健一さんは以前から興味のあった釣りを始めました。
当時は車での移動にも不便を感じませんでした。スーパーまでは約15分、最寄り駅までは約20分。通院も車で済ませられます。
最初の数年間は、夫婦とも「移住してよかった」と話していました。
ところが70歳を過ぎたころから、健一さんは運転について考えることが増えました。ある雨の日、夜に車で帰宅した際、対向車のライトがまぶしく、曲がる道を一つ通り過ぎてしまったのです。
事故を起こしたわけではありません。それでも帰宅後、健一さんは「夜の運転、前より疲れるようになったな」と漏らしました。
由美子さんも以前から気になっていたことを口にします。
「あなたが運転しなくなったら、ここでどうやって暮らす?」
自宅近くにもバス停はありますが、本数は多くありません。スーパーへ歩いて行くには遠く、総合病院へ行くにも車が便利です。
内閣府『令和5年度 高齢者の住宅と生活環境に関する調査』によると、65歳以上が普段の外出で利用する交通手段は「徒歩」50.1%に次いで「自分で運転する自動車」が46.6%となっています。また、現在住んでいる地域で「日常の買い物に不便」と答えた人は23.9%、「医院や病院への通院に不便」は23.8%、「交通機関が高齢者には使いにくい、または整備されていない」は21.5%でした。特に小都市では、これらの不便を挙げる割合が高くなっています。
今すぐ運転をやめる必要はありません。問題は、5年後、10年後も同じ生活を続けられるかでした。
