「行きたくないわけじゃない」誕生会を断って決めた線引き
誕生会は、直樹さん夫婦が予約したレストランで開く予定でした。裕美さんはプレゼントについて相談され、何を贈ろうかと最初は考えていました。
ところが話をしているうちに、直樹さんから「せっかくだから記念写真も撮ろうと思ってる」「食事代、お母さんの分も含めて結構かかりそう」と聞かされます。さらに、「一升餅とか選び取りのセットも頼もうかな」と続きました。
誰かが「払ってほしい」とはっきり言ったわけではありません。それでも裕美さんは、それまでの流れから、自分がまた費用の一部を負担することになるのではないかと感じました。
数日考えた末、直樹さんに電話をしました。
「誕生会なんだけど、今回は行かないことにするね。お祝いは現金だけ送るわ」
直樹さんは驚き、「え、初めての誕生日なのに?」と聞き返しました。
「行きたくないわけじゃないの。でも、これから誕生日も七五三も入学もあるでしょう。そのたびに私が何か出すのが当たり前になるのは違うと思って」
初めて、自分が感じていたことを言葉にしました。直樹さんからは「そんなつもりじゃなかった」と返ってきました。
裕美さんも、息子夫婦が意図的に頼っていたとは考えていません。ただ、自分が「何か必要なら言って」と言い続けたことで、頼みやすい関係を作っていたことにも気づきました。
内閣府の同調査では、今後優先的にお金を使いたいものとして「子や孫のための支出」を挙げた人は25.8%です。一方、「自分や配偶者・パートナーの医療・介護」は47.5%、「趣味やレジャー」は32.4%となっています。
また、総務省『家計調査報告〔家計収支編〕2025年平均結果の概要』によると、65歳以上の単身無職世帯では、1ヵ月の可処分所得11万8,465円に対して消費支出は14万8,445円で、平均では約3万円の差額が生じています。
年金月17万円の裕美さんは平均より収入に余裕があります。それでも、給与がなくなった今、預貯金をどこまで家族のために使うのかは自分で決めなければなりません。
誕生会当日、裕美さんは孫名義で3万円を送りました。
その夜、直樹さんから写真が何枚も届きました。ケーキの前で笑う孫を見て、「やっぱり行けばよかったかな」と少し寂しくなったそうです。
それでも、翌週には裕美さんの家へ直樹さん一家が遊びに来ました。
裕美さんは孫を抱きながら、「これからもお祝いはする。でも、何でも出すおばあちゃんにはならないからね」と笑いました。
直樹さんも、「分かった。こっちも頼りすぎてたかも」と答えたといいます。
初孫の誕生会を断ったのは、孫への愛情が薄れたからでも、3万円を惜しんだからでもありませんでした。
夫を亡くし、仕事も辞め、これからは自分の年金と貯蓄で暮らしていく。そんな節目を迎えた裕美さんにとって、誕生会への欠席は、「何でも出してあげる」祖母から、「自分で決めた範囲で祝う」祖母へと変わるための、一つの線引きだったのです。
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