「無職」に見える息子の実態
そんなある日、幸子さんが学生時代の同級生たちと旅行に出かけることになりました。
久しぶりの旅行を楽しみにする幸子さんとは対照的に、友人との付き合いがあまり多くなかった秀一さんは面白くありません。「旅行なんて行ったら、また金がかかるだろ」。そんな何気ない一言から始まった夫婦の口論が、次第にヒートアップしていきます。
ちょうどそのとき、健吾さんが帰宅。手にはスーパーの袋、中には缶ビールが入っています。
「昼間から酒……」
それを見た秀一さんの怒りの矛先は、息子へと向かいました。
「お前も42歳にもなって、いつまでそんな生活してるんだ!」
すると、それまで黙っていた健吾さんがいいました。
「俺、別に無収入じゃないけど」
健吾さんは会社を辞めたあと、空き家を活用した事業を始めていました。物件の管理や事業者との仲介、アプリを使った集客などを自宅で行い、月によってばらつきはあるものの、平均すれば30万~40万円程度の収入を得ています。こうした収入は、離れて暮らす健吾さんの子どもの学費、養育費の支払いに充てていました。
このことは以前から両親にも話していましたが、毎朝決まった時間に出勤するわけでもなく、平日昼間から家にいる健吾さんにそれだけの収入があるとは、長年会社員として働いて収入を得てきた秀一さんには理解できなかったのです。
「大体、親父たちさ、俺の心配する前に、自分たちが毎月いくら使ってるか知ってるの?」
秀一さんは言葉に詰まりました。考えてみればはっきりとはわかっていないからです。年金が振り込まれ、アルバイト代が入り、健太さんから生活費を受け取る。そこから食費や光熱費、車の維持費などを払い、残ったお金を貯金する。ただ、それだけでした。
「そんな話をしてるんじゃない!」
正論を突き付けられたことで、秀一さんの怒りはさらにヒートアップします。
このような感情的な衝突は以前から度々繰り返されてきましたが、いい加減不毛な争いに巻き込まれるのが嫌になった健吾さんは「やっぱ実家になんて帰ってくるんじゃなかったよ」と言い残し、近くにアパートを借り家を出ていきました。
当然、それまで健吾さんから受け取っていた月5万円は途絶えます。ですが、健吾さん一人がいなくなったからといって、固定資産税や車の維持費は変わらず、光熱費などが劇的に減るわけでもありません。支出はほぼ変わらないまま月5万円の固定収入だけが減少し、秀一さんの不安はより一層膨らむことになりました。