【8月の金市場】金価格は4,500~5,000ドルへ再上昇するのか――中央銀行の金買いと米財政リスクが支える「金再評価」の行方
(※画像はイメージです/PIXTA)
米国の金融政策や長期金利の動向を受け、金価格はいったん調整局面に入っています。しかし、金の下値を支える構造的な要因はむしろ強まっています。中央銀行による金購入は、第1四半期の減少から第2四半期には回復し、おう盛な需要トレンドが続いています。米国では財政赤字と政府債務の拡大が長期金利を押し上げる一因となっています。金は「利息を生まない資産」から、国家の信用リスクや財政リスクから距離を置くための資産として、改めて評価されつつあります。今後、調整を経て4,500~5,000ドルへの上昇を再開する可能性はあるのでしょうか。※なお、本稿はステート・ストリート・インベストメント・マネジメントの4名のストラテジストによる共同執筆です。
米国の財政リスクが高まるなか、金の再評価は続く
30年物米国債の利回りは7月のFOMCの前後に数十年ぶりの高水準まで上昇し、月末には2007年以降で初めて5.2%を上回りました。
ウォーシュFRB議長がフォワード・ガイダンスからの転換を図っていることに加え、こう着的なインフレ率と財政刺激策が相まって、タームプレミアム(長期債に対する上乗せ利回り)は上昇を続けています※20。米議会予算局(CBO)の2027年度予算見通しに関する6月のレビューでは、民間部門が保有する連邦債務は2026年度のGDP比100%から、2036年度までに同121%まで上昇すると予測されており※21、1946年に記録された第二次世界大戦後の最高水準である106%を上回る見通しです※22。
金にとって示唆されることは、低利で発行された債券が満期を迎えると、それよりもはるかに高い利回りで借り換えが行われ、債務スパイラル・リスクが高まる可能性があります。政策の透明性が失われると、投資家はクレジット・リスクがなく、供給が限られている実物資産へと向かうため、金はこうした財政リスクに対するヘッジ手段として一段と重要になると思われます。
金利が上がれば、金価格が下がるという見方は、あまりにも単純かもしれません。CBOの2026年2月の予測によると、連邦債務の平均金利は2025年の3.4%から2056年までに4.2%へと上昇し、金利コストをGDP比6.9%まで押し上げると見込まれます。これは、過去半世紀にわたる純金利コストの平均値であるGDP比約2%の3倍を上回っています※23。財政の持続可能性に対する懸念を背景に金利が上昇すると、経済成長の加速のみによる金利上昇局面とは異なり、金利と金価格の関係はより複雑なものになる可能性があります。
2015年12月、世界金融危機(GFC)後で初となるFRBの利上げは、当時1オンス1,050ドル近辺で推移していた金価格に対して下押し圧力になると広く予想されていました。2年物米国債の利回りは当時1%を下回っていました※24。その10年後、状況は様変わりしています。金価格は4,000ドルを上回る一方、2年物米国債の利回りは4.2%近くで推移しています※25。金の金利感応度は構造的なものではなく条件次第とみられ、金利が上昇する「理由」にも幾らか左右されます。
金価格の上昇は、金利サイクルだけでなく、財政刺激策が強まった時期とも重なっています。金価格は、1971年のブレトンウッズ体制の終了時における1オンス35ドルという管理価格から、2026年の年初来平均価格である約4,600ドルへと上昇しています※26。
これは、米国の債務が戦後のレバレッジ低下局面から構造的な拡大局面へと移行した同期間において、100倍を超える上昇を記録したことになります。転換点は上記のチャートからも明らかです。民間等保有債務は、GFC直前の2007年にGDP比35%付近で底を打ち、それ以降は経済にストレスがかかる度に赤字財政で賄う支援策が講じられ、対GDP債務比率は上昇してきました。より構造的で大規模な財政環境は、投資家が国家のバランスシートによる資金調達と直接的な関連性が低い資産を求める中で、金に対する需要を下支えする可能性があります。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご留意事項】をご参照ください。
Aakash Doshi(Head of Gold Strategy)、Mohamad Abukhalaf (Gold Strategist)、Diego Andrade(Senior Gold Strategist)、アーロン・チャン(ゴールド・ストラテジスト)
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※1 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 07/31/2026
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※8 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 07/31/2026
※9 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 07/31/2026
※10 Source: World Gold Council Gold Demand Trends Q2 2026, as of 07/30/2026
※11 Source: World Gold Council Gold Demand Trends Q2 2026, as of 07/30/2026
※12 Source: World Gold Council Gold Demand Trends Q2 2026, as of 07/30/2026
※13 Source: World Gold Council Gold Demand Trends Q2 2026, as of 07/30/2026
※14 Source: World Gold Council Gold Demand Trends Q2 2026, as of 07/30/2026
※15 Source: World Gold Council Gold Demand Trends Q2 2026, as of 07/30/2026
※16 Source: World Gold Council Gold Demand Trends Q2 2026, as of 07/30/2026
※17 Source: World Gold Council Gold Demand Trends Q2 2026, as of 07/30/2026
※18 Source: World Gold Council, State Street Investment Management, as of 07/31/2026
※19 Source: World Gold Council Gold Demand Trends Q2 2026, as of 07/30/2026
※20 Source: Bloomberg Finance L.P., Federal Reserve & State Street Investment Management, as of 07/31/2026
※21 Source: Congressional Budget Office & State Street Investment Management, as of 07/31/2026
※22 Source: Congressional Budget Office & State Street Investment Management, as of 07/31/2026
※23 Source: Congressional Budget Office, "The Long-Term Budget Outlook Data: 2026 to 2056" (Pub. No. 62044, February 25, 2026), Bloomberg Finance L.P., & State Street Investment Management, as of 07/31/2026
※24 Source: Bloomberg Finance L.P. & State Street Investment Management, as of 07/31/2026
※25 Source: Bloomberg Finance L.P. & State Street Investment Management, as of 07/31/2026
※26 Source: Bloomberg Finance L.P. & State Street Investment Management, as of 07/31/2026
<出所>
★1 出所:ワールドゴールドカウンシル、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2026年7月31日時点。記載されているパフォーマンスデータは過去のパフォーマンスです。過去のパフォーマンスは将来の結果を保証するものではありません。
★2 出所:米議会予算局(CBO)、ブルームバーグ・ファイナンス,L.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2026年7月31日時点。実績値は1900~2025年の実績: CBOの過去の予算データ。予測値は2025~2056年の予測: 米会計検査院(GAO)が2026年6月に発表した報告書「GAO-26-108610: 米国の財政健全性」に示されたCBOとGAOによる長期シミュレーションによると、対GDP債務比率は2025年の約99%から2056年には約250%まで上昇します。 記載されているパフォーマンスデータは過去のパフォーマンスです。過去のパフォーマンスは将来の結果を保証するものではありません。
<用語集>
・ブレトン・ウッズ体制:第二次世界大戦後の国際通貨体制(1944年~1971年)で、米ドルを1オンスあたり35ドルで金に、その他の通貨を米ドルに固定したものです。米国がドルの金兌換を停止した1971年に終了し、その後、金価格は自由変動制となりました。
・中央銀行:一つの国または国家連合で用いられる通貨と信用の創造と分配を独立性を持って管理する金融機関
・民間等保有債務:米議会予算局(CBO)が使用する連邦債務の指標であり、連邦政府以外の投資家が保有するすべての米国債を反映したものです。多くの場合、国内総生産(GDP)に対する比率として表されます。
・米連邦公開市場委員会(FOMC):米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策決定機関であり、定期的に会合を開き、フェデラル・ファンド(FF)金利の目標レンジ、および米国の金利や金融情勢に影響を与えるその他の金融政策手段を決定します。
・金のスポット価格:スポット市場における金の価格。国際的通貨コード「XAU」で表記される、1トロイオンス当たりの金価格。米ドル建て。
・国内総生産(GDP):一定期間内に国内で生み出されたすべての完成品およびサービスの総金額を指します。経済生産高の最も広範な指標として、また債務対GDPの比較における分母として一般的に用いられます。
・タカ派的:通常、インフレ抑制を目的とする政策金利の引き上げや金融緩和の縮小など、金融引き締めを指向する中央銀行の姿勢やメッセージを表します。
・インプライド・ボラティリティ・スキュー:満期が同じで権利行使価格が異なるオプション間で生じるインプライド・ボラティリティの差異を指します。プット・バイアス・スキューは、オプション市場が下落リスクへのヘッジ需要をより大きく織り込んでいることを示します。
・純購入量:一定期間に中央銀行または中央銀行グループが購入した金の総量から売却量を差し引いたもので、通常はトン単位で測定されます。
・公的部門:金の購入や外貨準備運用という文脈において、中央銀行やその他の政府系・国際通貨機関を指す用語であり、民間部門の市場参加者と区別されます。
・中国人民銀行:中国の中央銀行で、金融政策、通貨管理、および金融システムの監督を担当しています。
・実質金利:インフレ調整後の金利。物価上昇の影響を取り除くことで、真の借入れコストおよび投資による実際の利回りを反映します。
・準備資産の分散:集中リスクや特定の準備通貨への依存度を低減するため、中央銀行が外貨準備を金などの複数の資産クラスや通貨に分散させる取り組みです。
・タームプレミアム:投資家が一連の短期債券ではなく、長期債券を保有する際に要求する追加利回りのことで、時間の経過に伴って増大する金利リスクやインフレ・リスクを補償するものです。
・トン:メートルトン(1,000キログラム)のことで、ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)などが発行する業界レポートにおいて、中央銀行による純購入量など、金の需給量を測定するために使用される標準単位です。
・米国の金ETF:通常、現物の金を保有することにより、金価格に連動するように設計された米国の上場投資信託(ETF)です。投資家が金を直接保有することなく、金価格の変動に対するエクスポージャーを投資家に提供します。
・ボラティリティ・オブ・ボラティリティ:資産のインプライド・ボラティリティ自体が時間の経過とともにどれだけ変動するかを表す指標であり、オプション市場における織り込みやヘッジ需要の安定性に関する情報を提供します。
・イールドカーブのスティープ化:短期債と長期債の利回り格差が拡大する現象です。「ブル・スティープ化」は、短期債利回りが長期債利回りよりも急速に低下する際に発生し、多くの場合、中央銀行の政策に対する期待の変化を反映しています。