【8月の金市場】金価格は4,500~5,000ドルへ再上昇するのか――中央銀行の金買いと米財政リスクが支える「金再評価」の行方
(※画像はイメージです/PIXTA)
米国の金融政策や長期金利の動向を受け、金価格はいったん調整局面に入っています。しかし、金の下値を支える構造的な要因はむしろ強まっています。中央銀行による金購入は、第1四半期の減少から第2四半期には回復し、おう盛な需要トレンドが続いています。米国では財政赤字と政府債務の拡大が長期金利を押し上げる一因となっています。金は「利息を生まない資産」から、国家の信用リスクや財政リスクから距離を置くための資産として、改めて評価されつつあります。今後、調整を経て4,500~5,000ドルへの上昇を再開する可能性はあるのでしょうか。※なお、本稿はステート・ストリート・インベストメント・マネジメントの4名のストラテジストによる共同執筆です。
4,500~5,000ドル/オンスへの上昇再開を前にした調整局面か?
金スポット価格は3月から6月までの4カ月間でマイナスのリターンを記録したものの、7月には反発し(+1.0%)、年初から足元まで6.3%の下落となっています※1。米国の金ETFも7月には4,400万ドルの純資金流入となりました※2。5~6月に64億ドルの償還があったことを受け、投機資金やレバレッジをかけたロングポジションが一掃された可能性が高いです※3。押し目買いが現れ始めたため、金ファンドへの資金動向は安定化しつつあるようです。
金のスポット市場では、1オンス4,000ドル前後の緩やかな下値支持帯でもみ合いが続いています※4。アウトライトおよびリスク調整後ベースでは、金は2カ月連続で銀をアウトパフォームしました※5。第3四半期には、4,000ドル台前半のレンジで推移すると予想されますが、中国の現物需要や新興国中央銀行の需要がおう盛であることを踏まえ、年末または2027年初めにはレンジを突破し、4,500~5,000ドルに向けて上昇する可能性があります(図表1)。
実際、金オプション市場も取引水準が短期的にレンジ相場を維持する可能性を示唆しています。アット・ザ・マネー(ATM)オプションにおけるインプライド/実現ボラティリティのスプレッドは適正水準近辺にあり、実現ボラティリティが低下するにつれてボラティリティ・オブ・ボラティリティも低下しています。
また、短期のスキュー(市場のリスク認識)は、依然としてプット・バイアスがかかっているものの、7月後半には大幅に割高となりました※6。これは下落リスクに対するヘッジ需要が減少しつつあることを示唆しています。
米連邦準備制度理事会(FRB)は7月の連邦公開市場委員会(FOMC)で、利上げを主張して反対票を投じたメンバーが3名いましたが、政策金利の据え置きを決定しました※7。2026年後半は、金融政策の引き締めが引き続き、目に見えるリスクとなっています。ウォーシュFRB議長も事前に用意された発言の中で、インフレに対するタカ派的姿勢を明らかにしました※8。
それにもかかわらず、9月の利上げ確率は五分五分まで低下し、7月末にかけて米国債イールドカーブの短期ゾーンはブル・スティープ化し、それを受けて米ドルは数週間ぶりの安値水準まで下落しました※9。貴金属市場は、緩やかな引き締めバイアスをほぼ織り込んだと思われます。FRBが長期間にわたって政策金利を据え置く場合には、金にとって強気要因となる可能性があります。7月の雇用統計やインフレ指標は、FRBに関する市場の織り込みや政策の方向性に関して、金投資家が8月に注視すべき重要なデータポイントとなる可能性が高いと言えます。
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※1 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 07/31/2026
※2 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 07/31/2026
※3 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 07/31/2026
※4 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 07/31/2026
※5 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 07/31/2026
※6 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 07/31/2026
※7 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 07/31/2026
※8 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 07/31/2026
※9 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 07/31/2026
※10 Source: World Gold Council Gold Demand Trends Q2 2026, as of 07/30/2026
※11 Source: World Gold Council Gold Demand Trends Q2 2026, as of 07/30/2026
※12 Source: World Gold Council Gold Demand Trends Q2 2026, as of 07/30/2026
※13 Source: World Gold Council Gold Demand Trends Q2 2026, as of 07/30/2026
※14 Source: World Gold Council Gold Demand Trends Q2 2026, as of 07/30/2026
※15 Source: World Gold Council Gold Demand Trends Q2 2026, as of 07/30/2026
※16 Source: World Gold Council Gold Demand Trends Q2 2026, as of 07/30/2026
※17 Source: World Gold Council Gold Demand Trends Q2 2026, as of 07/30/2026
※18 Source: World Gold Council, State Street Investment Management, as of 07/31/2026
※19 Source: World Gold Council Gold Demand Trends Q2 2026, as of 07/30/2026
※20 Source: Bloomberg Finance L.P., Federal Reserve & State Street Investment Management, as of 07/31/2026
※21 Source: Congressional Budget Office & State Street Investment Management, as of 07/31/2026
※22 Source: Congressional Budget Office & State Street Investment Management, as of 07/31/2026
※23 Source: Congressional Budget Office, "The Long-Term Budget Outlook Data: 2026 to 2056" (Pub. No. 62044, February 25, 2026), Bloomberg Finance L.P., & State Street Investment Management, as of 07/31/2026
※24 Source: Bloomberg Finance L.P. & State Street Investment Management, as of 07/31/2026
※25 Source: Bloomberg Finance L.P. & State Street Investment Management, as of 07/31/2026
※26 Source: Bloomberg Finance L.P. & State Street Investment Management, as of 07/31/2026
<出所>
★1 出所:ワールドゴールドカウンシル、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2026年7月31日時点。記載されているパフォーマンスデータは過去のパフォーマンスです。過去のパフォーマンスは将来の結果を保証するものではありません。
★2 出所:米議会予算局(CBO)、ブルームバーグ・ファイナンス,L.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2026年7月31日時点。実績値は1900~2025年の実績: CBOの過去の予算データ。予測値は2025~2056年の予測: 米会計検査院(GAO)が2026年6月に発表した報告書「GAO-26-108610: 米国の財政健全性」に示されたCBOとGAOによる長期シミュレーションによると、対GDP債務比率は2025年の約99%から2056年には約250%まで上昇します。 記載されているパフォーマンスデータは過去のパフォーマンスです。過去のパフォーマンスは将来の結果を保証するものではありません。
<用語集>
・ブレトン・ウッズ体制:第二次世界大戦後の国際通貨体制(1944年~1971年)で、米ドルを1オンスあたり35ドルで金に、その他の通貨を米ドルに固定したものです。米国がドルの金兌換を停止した1971年に終了し、その後、金価格は自由変動制となりました。
・中央銀行:一つの国または国家連合で用いられる通貨と信用の創造と分配を独立性を持って管理する金融機関
・民間等保有債務:米議会予算局(CBO)が使用する連邦債務の指標であり、連邦政府以外の投資家が保有するすべての米国債を反映したものです。多くの場合、国内総生産(GDP)に対する比率として表されます。
・米連邦公開市場委員会(FOMC):米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策決定機関であり、定期的に会合を開き、フェデラル・ファンド(FF)金利の目標レンジ、および米国の金利や金融情勢に影響を与えるその他の金融政策手段を決定します。
・金のスポット価格:スポット市場における金の価格。国際的通貨コード「XAU」で表記される、1トロイオンス当たりの金価格。米ドル建て。
・国内総生産(GDP):一定期間内に国内で生み出されたすべての完成品およびサービスの総金額を指します。経済生産高の最も広範な指標として、また債務対GDPの比較における分母として一般的に用いられます。
・タカ派的:通常、インフレ抑制を目的とする政策金利の引き上げや金融緩和の縮小など、金融引き締めを指向する中央銀行の姿勢やメッセージを表します。
・インプライド・ボラティリティ・スキュー:満期が同じで権利行使価格が異なるオプション間で生じるインプライド・ボラティリティの差異を指します。プット・バイアス・スキューは、オプション市場が下落リスクへのヘッジ需要をより大きく織り込んでいることを示します。
・純購入量:一定期間に中央銀行または中央銀行グループが購入した金の総量から売却量を差し引いたもので、通常はトン単位で測定されます。
・公的部門:金の購入や外貨準備運用という文脈において、中央銀行やその他の政府系・国際通貨機関を指す用語であり、民間部門の市場参加者と区別されます。
・中国人民銀行:中国の中央銀行で、金融政策、通貨管理、および金融システムの監督を担当しています。
・実質金利:インフレ調整後の金利。物価上昇の影響を取り除くことで、真の借入れコストおよび投資による実際の利回りを反映します。
・準備資産の分散:集中リスクや特定の準備通貨への依存度を低減するため、中央銀行が外貨準備を金などの複数の資産クラスや通貨に分散させる取り組みです。
・タームプレミアム:投資家が一連の短期債券ではなく、長期債券を保有する際に要求する追加利回りのことで、時間の経過に伴って増大する金利リスクやインフレ・リスクを補償するものです。
・トン:メートルトン(1,000キログラム)のことで、ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)などが発行する業界レポートにおいて、中央銀行による純購入量など、金の需給量を測定するために使用される標準単位です。
・米国の金ETF:通常、現物の金を保有することにより、金価格に連動するように設計された米国の上場投資信託(ETF)です。投資家が金を直接保有することなく、金価格の変動に対するエクスポージャーを投資家に提供します。
・ボラティリティ・オブ・ボラティリティ:資産のインプライド・ボラティリティ自体が時間の経過とともにどれだけ変動するかを表す指標であり、オプション市場における織り込みやヘッジ需要の安定性に関する情報を提供します。
・イールドカーブのスティープ化:短期債と長期債の利回り格差が拡大する現象です。「ブル・スティープ化」は、短期債利回りが長期債利回りよりも急速に低下する際に発生し、多くの場合、中央銀行の政策に対する期待の変化を反映しています。