家族を頼れる安心と、自立した暮らしの両立
住み替えから半年後、直樹さんが母に尋ねました。
「週末くらい、毎回来たほうがいい?」
和子さんは「そんなに来なくていいわよ」と笑ったといいます。実際、息子一家が訪ねてくるのは月に2、3回ほど。普段の買い物や通院は夫婦だけで済ませています。
一方で、隆夫さんが高熱を出した際には、直樹さんが仕事帰りに薬や食料を届けました。マンションの給湯器に不具合が出たときも、業者とのやり取りを手伝ってくれたといいます。
「前なら、息子に来てもらうだけで往復2時間でした。それが15分になっただけで、安心感はかなり違います」
ただし、夫婦は「近くに住んだから将来も息子に任せればいい」とは考えていません。
どちらかに介護が必要になった場合は、介護保険サービスを利用すること。将来、一人暮らしが難しくなれば、高齢者向け住宅への住み替えも検討することを家族で確認しました。
マンションを選ぶ際も、資産価値だけでなく、エレベーターの有無や病院までの距離、車を手放した後の生活を重視しました。
内閣府『令和7年版高齢社会白書』によると、世帯主が65歳以上の二人以上世帯の貯蓄現在高の中央値は1,604万円で、4,000万円以上を保有する世帯は18.8%。隆夫さん夫婦の貯蓄5,000万円は比較的多い水準ですが、今後の介護や住み替えに備え、全額を現在の住宅へ使うことは避けました。
「広い家も、立派な家も、もう必要ありませんでした。欲しかったのは、二人で暮らせて、困ったときだけ息子を頼れる場所だったんです」
直樹さん側にも変化がありました。以前は「近くに住んでほしい」と考えていたものの、実際に近居が始まると、両親が自分たちで生活できていることに安心したといいます。
同居すれば安心とは限らず、離れて暮らせば不安になるとも限りません。高齢期の住まいでは、家族との距離だけでなく、買い物や通院のしやすさ、将来一人になった場合の生活まで含めて考えることが大切です。
家族に頼れる距離を確保しながら、それぞれの暮らしは分けておく。隆夫さん夫婦が選んだのは、互いに無理なく支え合える距離でした。
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