倒れた冬の日、浮き彫りになった現実
79歳の冬、栄子さんは自宅の庭で転倒して大腿骨を骨折。要介護2となり、一人暮らしの継続が難しくなりました。
厚生労働省「介護給付費等実態統計月報(2025年9月)」によると、75~79歳での要支援・要介護認定者の割合は11.8%。80~84歳では26.7%です。栄子さんの年齢で介護が必要になることは、特別なことではありません。
栄子さんが真っ先に頼りにしたのは、長女の由美子さんでした。同居しての在宅介護を期待していましたが、その願いは「腰痛もあるし、夫の親の世話があるから、お母さんの介護までは抱えきれない」と、あっさりと絶たれました。孫の友香さんは、海外の大学進学を目指して猛勉強中。まだ高校生の身ですから、介護手続きや日々のケアに関われるはずもありません。
結局、頼ったのは長男の和男さん。介護保険の申請手続き、病院への送迎、そして老人ホームの見学や入所契約。在宅介護の提案があるはずもなく、最初から「施設一択」でした。
施設の玄関を見つめ続ける午後
介護施設に入居した後、和男さんは衣類の補充や事務連絡の時に短時間顔を出すだけで、お茶を飲むこともなく「じゃあ、これで」と淡々と立ち去っていきます。当然、和男さんの子どもたちが訪ねてくることもありません。
友香さんはといえば、見事海外の大学に合格。「おばあちゃん、帰国したときには会いに行くからね」という言葉を残し、飛び立ったきりです。
ある日曜日の午後、施設の談話室で、栄子さんは隣の席の入所者が家族や孫、ひ孫たちに囲まれて賑やかに笑い合っている姿を目にしました。嬉しそうに話す隣人の声を聞きながら、栄子さんは面会時間が終わる夕方まで、玄関の自動ドアをじっと見つめていました。
しかし、栄子さんは、今の状況を誰よりも理解していました。
友香さんへの援助は、愛情の大きさに比例して高額でした。毎年のお年玉は5万円。小学校入学時には現金20万円と10万円超の高級ランドセル。私立中学合格時には100万円、大学入学祝いには「渡航費の足しに」と300万円。習い事の費用や旅行代、お小遣いも含めると、注ぎ込んだ額は軽く800万円を超えていました。
一方で、長男・和男さんの子どもたちへの扱いは冷淡でした。お年玉は1万円、入学祝いも3〜5万円程度。世間一般で見れば決して少ない額ではありませんが、友香さんと比較すれば、その差は歴然です。
問題は金額以上に、「やっぱり友香ちゃんは特別」という、栄子さんの隠そうともしない態度。そんな自分を思い出せば、自分に会いに来ない息子や孫を責めることはできません。
「私のところには誰も来ない。でも、自業自得なんですよね」
