「せっかく実家に帰ってきたんだから」が通じなくなった日
健太さんは驚いたようでした。
「そんな言い方しなくてもいいだろ。今まで普通にやってくれてたじゃん」
確かにその通りでした。
駅まで迎えに行くのも、好物を用意するのも、洗濯するのも、由美子さん自身が始めたことです。息子が強制したわけではありません。
だからこそ、由美子さんも長い間、「自分が勝手にやっているのだから」と不満を口にできませんでした。
しかし、夫を亡くしてから生活は変わりました。食事も洗濯も自分一人の量になり、好きな時間に起きて、疲れた日は家事を翌日に回します。
息子が帰ってくると、その生活が一気に現役の母親時代へ戻ってしまうのです。
その日の夜、健太さんは予定より早く自宅へ帰りました。玄関で「もうしばらく帰ってこないから」と言われ、由美子さんも「そう」としか返せませんでした。
息子を怒らせたことへの後悔はありました。それでも翌朝、一人分のコーヒーを入れたとき、ほっとしている自分にも気づいたといいます。
内閣府『令和7年版高齢社会白書』では、高齢者の経済生活に関する調査について、ひとり暮らしの人の1ヵ月当たりの収入は「10万円~15万円未満」と回答した割合が最も高かったとしています。限られた収入で暮らす高齢者にとって、子どもの帰省に伴う食費や光熱費も、回数や滞在日数によっては無視できない負担になります。
それから1ヵ月ほど、親子はほとんど連絡を取りませんでした。
先にメッセージを送ったのは健太さんでした。
「今度そっちに行ってもいい? 今度は駅から自分で行くし、ご飯も適当でいいから」
次の帰省は1泊だけ。健太さんは駅からバスで来て、夕食後には自分の皿を台所へ運びました。
「息子にとって私はずっと『お母さん』。でも私にも、自分の生活があります。もっと早く言えばよかったと思います」
親子であっても、子が成人し独立すれば別々の生活を持つ大人同士です。
家族だからと我慢を重ねるのではなく、泊まる日数や食事、送迎などについて、親が負担を感じ始めた段階で伝えることも必要でしょう。実家を「いつでも帰れる場所」として残していくためには、迎える側の暮らしを尊重することも欠かせません。
【関連記事】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■親が「総額3,000万円」を子・孫の口座にこっそり貯金…家族も知らないのに「税務署」には“バレる”ワケ【税理士が解説】

