(※写真はイメージです/PIXTA)

子どもが独立したあとも、実家はいつでも帰れる場所だと考える人は少なくありません。しかし、迎える親も年齢を重ね、体力や生活のペースは変わっていきます。親子だからこそ曖昧になりやすい「どこまでしてあげるか」。その境界をめぐり、関係がぎくしゃくすることもあります。

「せっかく実家に帰ってきたんだから」が通じなくなった日

健太さんは驚いたようでした。

 

「そんな言い方しなくてもいいだろ。今まで普通にやってくれてたじゃん」

 

確かにその通りでした。

 

駅まで迎えに行くのも、好物を用意するのも、洗濯するのも、由美子さん自身が始めたことです。息子が強制したわけではありません。

 

だからこそ、由美子さんも長い間、「自分が勝手にやっているのだから」と不満を口にできませんでした。

 

しかし、夫を亡くしてから生活は変わりました。食事も洗濯も自分一人の量になり、好きな時間に起きて、疲れた日は家事を翌日に回します。

 

息子が帰ってくると、その生活が一気に現役の母親時代へ戻ってしまうのです。

 

その日の夜、健太さんは予定より早く自宅へ帰りました。玄関で「もうしばらく帰ってこないから」と言われ、由美子さんも「そう」としか返せませんでした。

 

息子を怒らせたことへの後悔はありました。それでも翌朝、一人分のコーヒーを入れたとき、ほっとしている自分にも気づいたといいます。

 

内閣府『令和7年版高齢社会白書』では、高齢者の経済生活に関する調査について、ひとり暮らしの人の1ヵ月当たりの収入は「10万円~15万円未満」と回答した割合が最も高かったとしています。限られた収入で暮らす高齢者にとって、子どもの帰省に伴う食費や光熱費も、回数や滞在日数によっては無視できない負担になります。

 

それから1ヵ月ほど、親子はほとんど連絡を取りませんでした。

 

先にメッセージを送ったのは健太さんでした。

 

「今度そっちに行ってもいい? 今度は駅から自分で行くし、ご飯も適当でいいから」

 

次の帰省は1泊だけ。健太さんは駅からバスで来て、夕食後には自分の皿を台所へ運びました。

 

「息子にとって私はずっと『お母さん』。でも私にも、自分の生活があります。もっと早く言えばよかったと思います」

 

親子であっても、子が成人し独立すれば別々の生活を持つ大人同士です。

 

家族だからと我慢を重ねるのではなく、泊まる日数や食事、送迎などについて、親が負担を感じ始めた段階で伝えることも必要でしょう。実家を「いつでも帰れる場所」として残していくためには、迎える側の暮らしを尊重することも欠かせません。

 

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