「節約で逃げ切る」戦略を打ち砕いたインフレの壁
A子さんに襲い掛かったのは「物価高の大波」でした。
食費、光熱費、日用品……あらゆるものが値上がりし、月10万円に収まっていた生活費は13万円近くまで跳ね上がりました。パートの給料は上がらないため毎月の収支はギリギリとなり、生活費は圧迫され、資産の取り崩しペースが当初の想定をあっさり超えるようになったのです。
「何も贅沢していません。むしろ、焦って切り詰めていました。時々の贅沢で行っていたカフェも完全にやめたぐらいです。それなのに、大家さんから『家賃を1万円値上げします』という連絡まで来て……。『同意しません』と断りましたが、いつ出て行けと言われるか怖くて」
厳しくなる生活の中で、それまで「何とかなる」と考えていた年金についても不安が大きくなりました。20代〜30代前半という短い期間しか正社員として働いていないため、将来受け取れる年金額は極めて少ないのが現実です。
「月10万円生活」が維持できなくなれば、資産1,500万円など老後の医療費や賃貸の更新料、さらなる物価上昇で、すぐに底をついてしまいそうに感じました。
「仕事をしたくないからパートになったのに、このままだと70歳、80歳になっても労働を続けないと生きていけないかもしれない」
もっと切り詰めて取り崩しを最小限にし、運用益を増やす。老後までの運用期間を考えれば逃げ切れるのでは……そうも考えました。しかし、投資に“絶対”はありません。博打のような危険な賭けは、A子さんにはできませんでした。
現役時代に稼ぎ切った人は、60代で「完全リタイア・労働ゼロ」に入ることもできるでしょう。しかし、自分は老後も死ぬまで細く長く働き続けなければならない――その可能性に、A子さんはあらためて向き合いました。
