「嘘だとは知らなかった」は通用する?選挙候補者のデマ投稿を安易に拡散させない〈2026年7月成立・新法律〉【弁護士が解説】

「嘘だとは知らなかった」は通用する?選挙候補者のデマ投稿を安易に拡散させない〈2026年7月成立・新法律〉【弁護士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

「〇〇政党は、日本を破滅に導く政党!」「××候補者は、△△の政策を信奉している、無能な政治家!!」——インターネット上には、政治や選挙に関してコメントする情報が溢れています。特に近ごろの投稿(動画)には、過激な言葉を使って、特定の政党・候補者を攻撃するようなものや、そもそも内容が虚偽であると思われるものも少なくありません。こうした誹謗中傷や虚偽情報は、民主主義にとって大きな脅威です。これらに対する新たな法的アプローチとして、2026年7月13日に重要な法改正が行われました。本記事では、新たに成立した「偽・誤情報規制のルール」について、弁護士の加藤慶二氏がわかりやすく解説していきます。

新ルールが必要な理由…既存の「虚偽事項公表罪」との違い

ここで、「公職選挙法には、もともとウソの投稿を取り締まる法律があったのでは?」という疑問を持つ人もいるでしょう。確かに、同法第235条2項には「虚偽事項公表罪」が規定されています。

 

〔235条2項〕虚偽事項公表罪

当選を得させない目的をもつて公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者に関し虚偽の事項を公にし、又は事実をゆがめて公にした者は、四年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。

 

刑事罰も科されているこの犯罪と、今回設けられたルールは、なにが違うのでしょうか。

 

既存の虚偽事項公表罪を適用するには、少なくとも次の2つのハードルを越える必要があります。

 

1.「当選を得させない(落選させる)目的」があったこと

2.投稿者が「これは虚偽情報である」、または「事実をゆがめている」と認識していたこと

 

この「目的」を証明するのは大変で、通常は選挙運動期間中、または選挙の時期に近い時期の行動であることなど、さまざまな状況証拠でもって、「目的」があることを証明する必要があります。さらに、「ウソだとわかって投稿した」ことも必要なため、他人のデマ投稿を真実だと信じ込んでシェア・拡散した人に対しては、処罰が難しいのが実情でした。つまり、既存の罪は立件するうえで「使い勝手が悪い」という弱点があったのです。

 

これに対し、新ルールは「候補者」に関する虚偽事項を禁止しているだけですし、刑事罰が科されないなど、強い規制ではないでしょう。しかし、虚偽事項公表罪が成立するための「目的」要件は存在しません。なにより、候補者に対する偽・誤情報をしてはならないとの風潮を強めることになるので、行政にとっても、偽・誤情報を禁止する方策を取りやすくなります。海外からの偽・誤情報を禁止する意味も持つのです。

 

SNS事業者(プラットフォーム)への規制強化

加えて、今回、情報流通プラットフォーム対処法(旧プロバイダ責任制限法が改正された、SNS事業者などを規制する法律)も改正されました(新27条の2)。

 

これにより、情報流通プラットフォームを提供する事業者に対し、偽・誤情報の流通によって生じる悪影響を軽減するための必要な措置を講じる義務が課されます。今後、総務省が「必要な措置」に関する指針をまとめる予定になっています。

 

その指針では、プラットフォーム事業者が行う措置として、「こんなことが求められる」といった推奨事項が示されることになるでしょう。プラットフォーム事業者は、必要な措置を行いつつ、行った措置の内容を年1回公表しなければなりません。

個人にも企業にも求められるリスクヘッジ

いまや、多くの人がSNSを使っています。そうしたとき、たとえば一般企業であっても、公式アカウントの運用をいま一度、徹底することが必要になってきます。

 

また、プライベートのアカウントであったとしても、選挙期間中に、特定の候補者に関する真偽不明の情報(特にネガティブな噂や誇張された情報)を安易にシェア・拡散しないことを社員へ注意喚起しておくことも企業のリスクヘッジとして考えられるところでしょう。

 

偽・誤情報は民主主義を脅かすものとして許されません。偽・誤情報がネット上に溢れる背景には、人々の関心(アテンション)を集めることで広告収入などの対価を得る「アテンション・エコノミー」の仕組みが深く関わっているでしょう。「面白ければいい」「注目されれば稼げる」という歪んだインセンティブが働く現代。今後、アテンション・エコノミーについても議論されていくと思われます。

 

 

加藤 慶二

弁護士

 

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