「何が起こり、いくら必要になるかわからない」という不安
――なぜ、多くの日本人はこれほどまでに「老後のお金」に対して強い不安を感じるのでしょうか。
小林先生(以下、小林):
老後不安の正体は、一言で言えば「わからないこと」そのものです。自分がもらえる年金額で本当に足りるのかがわからない。今ある貯蓄を取り崩していって何歳まで持つのかがわからない。病気や介護が必要になったらいくらかかるかわからない。そして最もわからないのは「自分は何歳まで生きるのか」という寿命の問題です。
あらゆる未来が不透明だからこそ、人間は漠然とした不安に襲われ続けます。そしてその結果、多くのシニアが「とにかくお金を使わないようにしよう」と、極端な節約生活に入ってしまうのです。
統計データを見ると、皮肉なことに「人生の晩年が最もお金持ち」という実態があります。「不安だから」といって、現役時代から老後にかけてお金を切り詰め、使わないまま亡くなっていく。
死んだ後に大金が残っていても、本人の人生が豊かだったとは言えませんよね。元気なうちに行きたい場所へ行き、使いたいことにお金を使う。そのためには、不安の霧を晴らす必要があります。
日本の「公的保障」は驚くほど手厚い
――老後不安の霧を晴らし、「使っていいお金」を明確にするにはどうすれば良いですか。
小林:
まずは、国が用意してくれている「公的保障」の制度を正しく知ることです。実は、日本の社会保障制度は世界的に見ても驚くほど手厚いのです。病気で医療費が高額になれば「高額療養費制度」で自己負担は一定額に抑えられますし、万が一障害を負った場合は「障害年金」、配偶者を亡くした場合は「遺族年金」が支給されます。
しかし、これらの本当に価値のある制度は、テレビCMで宣伝されることはありません。そのため、多くの人が制度を知らないまま「何かあったら怖いから」といって、民間の生命保険や医療保険に大量に加入し、毎月高額な保険料を支払い続けています。
これは一種の「不安ビジネス」の罠にかかっている状態です。まずは公的保障という強固な土台を知る。その上で、どうしても足りない部分だけを民間の保険で最小限補う、というステップを踏めば、固定費を大幅に削減でき、投資や生活費に回せるお金を増やせるはずです。
「資産寿命の見える化」で、相談者の表情はパッと明るく…
――先生がお客様の相談を受ける際、最も重視しているのはどのようなステップですか。
小林:
現在の資産とこれからの生活費をシミュレーションし、自分の「資産寿命(お金が何歳まで持つか)」を見える化すること、つまり「ライフプランニング」です。
実際にこれを行うと、多くの相談者の方の表情が劇的に明るくなります。「今の生活を続けていても、資産は減るどころか増えていく」などといった未来が見えることで「体が動く元気なうちに、安心してお金を使おう」といった気持ちになるからです。
逆に、シミュレーションの結果、「自分の命の寿命より前に、資産が尽きてしまう」という厳しい現実が発覚することもあります。しかし、それも若ければ若いほど、固定費の見直しや働く期間の延長といった「事前の対策」を打つことができます。
どちらにしても未来を正しく知ることは、これからの人生をより安心な、より充実したものにするために不可欠な作業なのです。
利益相反のない「信頼できる相談相手」の見分け方
――ライフプランニングを専門家に相談したい場合、どのような基準で相手を選べば良いでしょうか。
小林:
最も大切な基準は、「無料の相談窓口には行かないこと」、そして「利益相反(りえきそうはん)の関係がない相手を選ぶこと」です。
日本には「相談にお金を払う」という文化があまりなく、「無料相談」を当たり前のものと考える人が多いのです。しかし、無料の相談ブースの場所代や人件費がどこから出ているかを考えてみてください。彼らは、あなたに保険や投資信託などの商品を売ることで、そこから発生する手数料をもらうビジネスを成り立たせています。
つまり、「あなたに不要な商品であっても、手数料が高いものを売った方が儲かる」という構造的な利益相反が起きているのです。そんな構造の中で、あなたの未来を一番に考えたアドバイスが得られるでしょうか。
私が以前お会いしたお客様で、非常に適切に選ばれた金融商品と、「これはちょっと…」と考えてしまうような金融商品をそれぞれ持っている方がいました。どちらも同じ担当者から異なるタイミングで購入した商品なのですが、適切なほうは「あえて相談料を払って教えてもらったもの」で、もう一つは「無料相談時に勧められたもの」ということでした。お客様が自ら利益相反の関係性を崩したという珍しい事例です。
本当に信頼できる相手を探すなら、少々ハードルは高く見えても、「商品の販売・仲介をしないFP」にお金を払って相談するのが、結果として最も安上がりで確実な方法だと思います。
これからを生きる皆さんに、同じ悲劇を繰り返してほしくない
――最後に、読者へ最も伝えたいメッセージをお願いします。
小林:
これまでお話しした通り、この本の根底には、父が勧められるがままに退職金を溶かしていくのを、止められなかった私自身の強い後悔があります。私が「これからは投資の時代だよ」と安易に勧めてしまったことが、すべての引き金でした。亡くなった父に今から知識を伝えることはできませんが、だからこそ、これからを生きる皆さんには、同じような悲劇を繰り返してほしくないという思いで執筆しました。
お金を増やすテクニックに溺れるのではなく、まずは自分の人生の設計図を描くこと。そして、投資と適切な距離を保ち、お金に振り回されないこと。本書が、皆さんの心穏やかな人生につながるきっかけになれば、これほど嬉しいことはありません。



