今回は、中国で繰り返される「GDPの歪曲」の実態を検証します。※本連載は、金融情報全般を扱う大手情報配信会社、株式会社フィスコ監修の『FISCO 株・企業報 2017年春号 今、この株を買おう』(実業之日本社)の中から一部を抜粋し、中国経済の危うさと、日本経済に与える影響、世界経済への波及などを検証していきます(執筆:株式会社フィスコ所属アナリスト・田代昌之氏)。

「GDPの歪曲化」は2012年から一段と進行?

以下の図表にみられるように、中国GDP成長率の四半期ごとの変化幅は、2012年後半以降から急激に小さくなってきている。

 

 

以前から中国のGDPに対する信頼性は低いとされてきたが、最近ではこのタイミングから、「歪曲」の度合いが一段と強まったものと推測される。ちなみに、ここ最近のGDPは6.7%成長が継続している。

 

2012年は習近平政権が発足した年であるが、このときの党大会において、胡錦濤が2020年のGDPと1人当たり国民所得を10年の2倍に増やす目標を掲げたため、新政権はこの目標達成に向け、年7%程度の成長を持続していかなければならなくなった。

 

政権発足直後から目標数値を大きく割り込むことは、なんとしても避ける必要が生じてしまったのだ。

 

こうした背景があって、形式的な高成長持続が造られる形になっているとみられる。中国GDPは2012年以降、実態との乖離が一段と広がったものと推測したい。なお、習近平指導部による2016年GDP目標は「6.5~7.0%」のレンジとなっている。

李克強指数との「乖離」がここ2年で大幅に拡大

では、中国GDPの本当の数値はどれくらいになるのだろうか。いくつかの分析から推測していってみよう。

 

以下の図表は、四半期ごとの成長率を掛け合わせて累積した李克強指数と、中国GDPの推移である(2011年第4四半期を100)。

 

 

あくまで、四半期ごとに成長率を掛け合わせたものであり、実際の年率成長とは異なるが、2012年以降も、2014年第3四半期まではほぼ連動した推移となっていた。

 

ただ、その後は大きな開きが出てきており、これを見る限り、このタイミングからは明らかに、中国GDPは実態以上にかさ上げされた数値で保たれるようになってきたと考えることができよう。

 

2016年第3四半期の段階では、李克強指数はGDPに対して80・8%の水準になっている。仮に、乖離が広がった2014年、2015年のGDP成長率が、実際には李克強指数並みの伸びにとどまっていたと仮定すれば、2015年のGDPは発表された59兆2100億元(SNAに基づいたデータ)を下回る57兆5630億元になる。

 

この場合、2014年と2015年のGDP成長率は年率平均で5.5%程度にとどまる計算となる。

FISCO 株・企業報 2017年春号 今、この株を買おう

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