進まない「個人消費主導型の成長モデル」への転換
実質的な経済成長が減速期に入っていると思われる今、中国は国家による投資主導の成長モデルから、個人消費主導型の成長モデルへの転換が求められている。
中国において、一貫して進められてきた投資主導の高GDP成長が限界に達していることはすでに記したとおりで、これを打開するには、個人消費を拡大し、消費によって経済成長を高めてくしかない。
しかしこれまで説明した通り、社会保障制度への不安や流動性への制約など、中国が構造的に抱える諸問題が足かせとなって、個人消費の拡大はなかなか進まない現状がある。結局、GDPのかさ上げのための不要な投資と不良債権先送りが実施されており、そうした政策によって既存の経済モデルは強化・温存されている状態だ。
このままの状態が進めば、他国を巻き込んだ金融危機の発生と、外貨準備減少ループは際限なく続くと思われる。中国に対する「世界需要」が急増し、延命するシナリオも考えられるが、そのインパクトは限られており、またその発生確率も低いことは否定できない事実である。
今後中国がたどるであろう「4つのシナリオ」とは?
そうした状況を踏まえて、フィスコ社では「世界の金融市場シナリオ分析会議」を設置し、今後の中国がたどるであろうシナリオを分析。中国政府が随時訪れる危機にどのように対処するかによってシナリオが大きく分岐することを想定し、次の4つのシナリオを描き出している。
<中国経済の今後のシナリオ>
①ベースシナリオ
現実的でかつ中国にとって相対的に望ましいシナリオは、ゆるやかな元安誘導によって危機発生を抑えつつ、他国からの投資を誘引することにより、輸出立国として地位を維持することである。とはいえ、構造改革を先送りすることとなるので、典型的な中所得国の罠に陥る可能性がある。
②ソ連崩壊型シナリオ
経済の困窮が続けば、民衆の不満が高まる。その場合、政治闘争が激化し、民主主義/資本主義への移行を掲げた政権が誕生する可能性がある。
③新中国誕生シナリオ
急進的で独裁的な勢力が政治闘争に勝利し、外資系資本や資本家の資産を接収するような政府が誕生することも考えられる。
④内戦シナリオ
複数の政治勢力と軍部が激しく対立するシナリオ。
なお、「シナリオプランニング:戦略的思考と意思決定」の著者キースヴァン・デル・ハイデンによると、シナリオプランニングとは「未来の記憶」を行うためのものであるとされている。
未来のシナリオには、それを作った人、読んだ人に新しい可能性を示し、視野を大きく広げる働きがある。そして重要な変化の因子をストーリーとして理解するため、その変化の兆しが現れたらいつでも行動に移せるよう準備ができるようになる。
シナリオプランニングとは、「必ず起きること」を予測するものではなく、むしろ「起きるか起きないかわからない」未来を複数描き、それに備えようとする方法論である。未来のシナリオが頭に入ると、感度が高まり、入ってくる情報が変わり、そして行動を変えることができる。
不確実性が増す現代を生き抜くためには、考えうる極端なシナリオをすべて描き出し、未来に何が起こるか、自分自身を取り巻く状況はどのような状態になり、どのような影響があるかを今から仮想的に経験しておくことが重要と考えられている。
これらは、実際に事が起こった時への危機対応能力を高め、また今からそれらのシナリオ下において何を準備しなければならないかという点について示唆に富んでいる。
投資家や事業経営者などの読者には、今後起こりうる中国の未来のストーリーにおいて投資や資産保全などを考える上でその感度を高める一助になれば幸いである。
今回、どのような流れで4つのシナリオにたどり着くことになるのかは、以下のチャート図をご覧になっていただきたい。
現実的には、例えば内戦後に再統一されるといった、シナリオ間の移動も十分に考えられるが、今回それは想定しないものとしている。今回のシナリオプランニングで重要視しているのは各シナリオの幅の広さである。この点を明確にするため、あえてシンプルな作りにしている。
では次回からは4つのシナリオに沿って、それぞれが世界経済や日本経済に与えるインパクトについて、考察していくことにしよう。