構造改革等の先送りで「中所得国の罠」に陥る中国
もっとも現実的で、中国にとって相対的に望ましいシナリオは、ゆるやかな元安誘導によって金融危機の発生を回避しつつ、他国からの投資を誘引、輸出立国としての地位を維持強化することである。
このシナリオでは、統制経済の方向性が今以上に強まることで、不良債権処理や構造改革は先送りとなり、成長鈍化の大きな改善は望めない。そうなれば中国は典型的な中所得国の罠に陥ってしまう可能性も否定できない。
中所得国の罠とは、途上国がある一定水準まで発展・成長を実現すると、その後その発展モデルや戦略から抜け出せなくなり、自国の人件費の高騰や後発の新興国の台頭なども影響して成長率が低下し、長期低迷に陥ることをいう。
この場合、中国にも、超長期のバブル処理が求められ、バランスシート不況が続く、という状況が少なからず訪れることになるだろう。
このシナリオでは、地政学的にも現状維持の状態が続くことになる。そのため、現在がそうであるように、比較的安定的ではあるものの、周辺で小規模の軍事衝突の可能性が残されることになろう。
中国崩壊への警戒感が、株価の抑制要因に
日本経済への影響という点では、円高圧力が高まり、株価は短期的なショック安となるだろうが、その幅は小さいと思われる。
ただ、中国の崩壊に対する警戒感が長期的な株価の抑制要因になりそうだ。そして中国が輸出拡大策に舵を切ることで、輸出関連株の調整が大きくなると予想される。長期的に円高傾向が続き、日本経済が長期低迷に陥る可能性も考えておくべきだろう。グローバル経済への影響はどうか。
為替では新興国通貨売り、先進国通貨買いの流れが長期化することが予想される。安全資産である米国債や日本国債に資金が向かうことで、日米の長期金利は低下方向。世界的に金融緩和政策が強まることも、先進国の長期金利低下を促すことになろう。
そして対中貿易は緩やかに減少し、外資系企業撤退の動きも出てくるだろう。長期的に見ると、新興国の連鎖破綻につながる可能性も否定できない。