(※写真はイメージです/PIXTA)

十分に思える老後資金を準備していても、思いどおりに第二の人生を迎えられるとは限りません。親の介護や相続だけでなく、実家に暮らし続けるきょうだいの存在が、老後設計を大きく左右するケースもあります。自分自身の生活を守りたい一方で、家族を放っておけない。その板挟みに苦しむ人は少なくありません。

実家暮らしの弟…親亡き後に直面した厳しい現実

洋子さん(仮名・65歳)は、2年前に会社を定年退職しました。夫と二人暮らしで、夫婦の年金収入は月25万円ほど。退職金などを含めた貯蓄は約2,300万円あり、「慎ましく暮らせば何とかなる」と考えていました。

 

しかし、退職後も心が休まる日はありませんでした。

 

原因は、実家で一人暮らしを続ける58歳の弟・健一さん(仮名)です。

 

健一さんは若い頃に会社を辞めた後、非正規の仕事を転々とし、長年両親と暮らしてきました。父はすでに亡くなり、母も数年前に他界していますが、健一さんは築45年になる実家にそのまま住み続けています。

 

収入は不安定で、老朽化した家の修繕もできません。

 

洋子さんは以前から、「仕事を安定させたら」「住み替えも考えたら」と何度も声をかけてきました。しかし、そのたびに返ってくるのは「何とかなる」「今さら無理だよ」という言葉でした。

 

最初は、本人の人生だからと距離を置いていました。ところが、雨漏りの修理費や固定資産税の支払いが難しいと相談されるようになり、数万円ずつ援助することが増えていきます。

 

「今回だけだから」

 

そう思って渡したお金は、一度では終わりませんでした。

 

総務省『家計調査(2025年)』によると、65歳以上の夫婦のみ無職世帯では、可処分所得約22.2万円に対し、消費支出は約26.4万円となっており、平均では毎月約4.2万円の不足が生じています。洋子さん夫婦も年金だけで生活が十分成り立つわけではなく、取り崩しを前提に家計を組み立てていました。

 

それでも弟から電話があるたび、「もし放っておいて家を失ったら」「病気になったらどうするの」と考え、お金を出してしまう自分がいました。

 

「自分の老後どころじゃない……」

 

そう漏らしたのは、援助を始めて5年ほど経った頃でした。

 

貯蓄は少しずつ減り、旅行も控えるようになりました。本来なら夫婦で楽しむはずだった退職後の時間が、弟の生活への不安で埋め尽くされていったのです。

 

 

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