「少しの間だけでも」…息子の家を頼ろうとした夫婦
修一さん(仮名・76歳)と妻の佳代さん(仮名・73歳)は、長年住んでいた賃貸マンションを退去することになりました。建物の老朽化に伴う取り壊しが決まり、数ヵ月以内に次の住まいを探さなければならなくなったのです。
夫婦の年金収入は月22万円ほど。大きな貯蓄はなく、民間賃貸で希望に合う物件を探すのは簡単ではありませんでした。
不動産会社を回っても、高齢夫婦だけの入居に慎重な物件は少なくありませんでした。家賃を抑えれば駅から遠くなり、通院や買い物が不便になります。
かといって利便性の高い物件は家賃が高く、年金だけでは不安が残りました。佳代さんは「いったん息子のところへ行けないかしら」と口にします。
長男の直也さん(仮名・48歳)は、郊外の戸建てで妻と子ども二人と暮らしていました。修一さん夫婦は、同居を強く望んでいたわけではありません。ただ、住まいが見つかるまで数ヵ月だけでも置いてもらえれば、落ち着いて探せると考えたのです。
ところが、直也さんの返事は想像以上に厳しいものでした。
「悪いけど、うちでは無理だよ」
理由を聞くと、子ども部屋も足りず、妻も在宅勤務をしているため、これ以上同居人が増える余裕はないと言われました。さらに、同居が一時的で済まなくなるのではないかという不安もあったようです。
「まさか、うちの子に……」
佳代さんは電話を切ったあと、しばらく動けませんでした。育ててきた息子に拒絶されたように感じたのです。
しかし、直也さんにも生活がありました。親への情がないわけではなく、受け入れれば自分の家庭が崩れるかもしれないという危機感があったのです。
総務省『家計調査(2025年)』によると、65歳以上の夫婦のみ無職世帯では、可処分所得約22.2万円に対し、消費支出は約26.4万円となっており、平均で毎月約4.2万円の不足が生じています。修一さん夫婦の年金額も、日々の生活費を考えれば十分とは言えず、住居費の負担は重い問題でした。
