「私がいれば何とかなる」…母との同居で失われていった日常
真紀さん(仮名・54歳)は、77歳の母・節子さん(仮名)と実家で暮らしていました。父はすでに亡くなり、節子さんの年金は月14万円ほど。
真紀さんは会社員として働き、月収は約40万円ありました。独身で子どももいないため、周囲からは「お母さんのそばにいられて安心ね」と言われることが多かったといいます。
同居を始めたのは、節子さんが軽い転倒をしたことがきっかけでした。当初は、買い物や通院の付き添いを手伝う程度でしたが、次第に家事の多くを真紀さんが担うようになります。朝は母の朝食を用意してから出勤し、帰宅後は夕食、洗濯、薬の確認。休日は買い出しと病院の付き添いで終わりました。
節子さんに悪気があったわけではありません。むしろ「いつも悪いね」と口にしていました。
それでも、真紀さんが友人と会う予定を入れると「今日は帰りが遅いの?」と不安そうに聞きます。旅行の話をすれば「一人で何かあったらどうしよう」と心配します。真紀さんはそのたびに予定を取りやめ、母を優先するようになりました。
厚生労働省『国民生活基礎調査』によると、要介護者を主に同居家族が介護している割合は45.9%にのぼります。介護は身体的な負担だけでなく、仕事や人間関係、自分の将来設計にも影響します。真紀さんの場合、まだ本格的な介護ではないと思っていたため、外部サービスを使うことにためらいがありました。
しかし、負担は確実に積み重なっていました。仕事中も母からの電話が気になり、会議中にスマートフォンを確認することが増えました。夜は母の物音で目が覚め、休日も心から休めません。月収40万円があっても、自分のために使える時間はほとんどなく、貯蓄や老後の準備について考える余裕もなくなっていきました。
「このままだと、私の人生が全部なくなる」
そう感じたのは、真紀さんが体調を崩した日のことでした。疲れが抜けず、会社を休んだにもかかわらず、母の通院に付き添わなければなりませんでした。帰宅後、台所で洗い物をしながら涙が止まらなくなり、自分が限界に近いことを初めて認めたのです。
