(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢の親が老人ホームに入居すると、家族は「これで安心」と考えがちです。食事や入浴、見守りがあり、一人暮らしより安全に思えるからです。しかし施設に入ったあとも、本人の孤独や不安がすべて消えるわけではありません。家族が面会して初めて、親が抱えていた思いに気づくこともあります。

「ここなら安心だ」…父を老人ホームに託した長男の安堵

浩一さん(仮名・58歳)は、90歳の父・昭雄さん(仮名)が有料老人ホームに入居したことで、ようやく肩の荷が下りたように感じていました。

 

昭雄さんは数年前に妻を亡くしてから一人暮らしを続けていましたが、足腰が弱り、買い物や掃除も負担になっていました。浩一さんは仕事の合間に実家へ通っていましたが、転倒や火の不始末が心配で、常に不安を抱えていたのです。

 

入居を決めるまでには迷いもありました。昭雄さんは最初、「まだ家で暮らせる」と言っていました。しかし、夜中にトイレへ行こうとして転んだことをきっかけに、家族で話し合いを重ねます。

 

施設は自宅から電車で1時間ほどの場所にあり、職員の対応も丁寧でした。食事や入浴の支援があり、夜間も人の目があることから、浩一さんは「ここなら父も安全に暮らせる」と考えました。

 

厚生労働省『介護サービス施設・事業所調査』によると、高齢者向けの施設や居住系サービスは、在宅での生活が難しくなった人を支える重要な役割を担っています。介護保険制度を利用しながら施設サービスを選ぶことは、家族が介護を放棄することではありません。本人の安全と、支える家族の生活を両立させるための現実的な選択でもあります。

 

入居当初、昭雄さんは「まあ、何とかやっている」と話していました。食事も口に合い、職員にも親切にしてもらっているようでした。

 

浩一さんは安心し、仕事の忙しさもあって面会の間隔が少しずつ空いていきます。電話では「変わりないよ」と言われるため、深く心配することはありませんでした。

 

ところが入居から3ヵ月ほど経ったある日、浩一さんが久しぶりに施設を訪れると、居室の様子に言葉を失いました。

 

ベッド脇の棚には、浩一さんや孫たちが送った手紙が何度も読み返されたように並べられ、テーブルの上には面会予定を書き込んだカレンダーが置かれていました。そこには、浩一さんが来られなかった日に小さく「仕事」「また今度」と書かれていたのです。

 

さらに引き出しを開けると、使い古した封筒に「浩一に渡す」と書かれたメモが入っていました。中には、「忙しいのにすまない」「ここは悪くない」「でも、たまに声が聞きたい」と震えた文字で書かれていました。

 

 

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