「最後は売ればいい」…資産価値を信じて購入したタワマン
幸一さん(仮名・74歳)と妻の美智子さん(仮名・72歳)は、十数年前に都心のタワーマンションを購入しました。子どもたちは独立し、夫婦二人の暮らしになったタイミングで、郊外の戸建てを売却して住み替えたのです。
当時の決め手は、駅から近いことと資産価値でした。病院やスーパーも近く、車を手放しても暮らせる。何より、不動産会社から「都心の駅近物件なら将来も売りやすい」と説明されたことが、夫婦の背中を押しました。
現在の夫婦の年金収入は月31万円ほどです。住宅ローンはありませんが、管理費、修繕積立金、固定資産税を合わせると、住居関連費の負担は軽くありません。入居当初は気にならなかった共用施設の維持費も、年齢を重ねるにつれて「ほとんど使わないのに支払い続けているもの」に感じられるようになりました。
総務省『家計調査(2025年)』によると、65歳以上の夫婦のみ無職世帯では、可処分所得約22.2万円に対し、消費支出は約26.4万円となっており、平均で毎月約4.2万円の不足が生じています。幸一さん夫婦は年金額だけを見れば平均より余裕があるものの、マンション特有の固定費が家計を圧迫していました。
それでも幸一さんは、長く深刻には考えていませんでした。
「いざとなったら売ればいい。ここは都心だから」
そう話していたのです。
ところが、築年数が進むにつれて状況は変わっていきます。管理組合では大規模修繕に向けた議論が続き、修繕積立金の再増額も検討されるようになりました。さらに、同じマンション内でも売り出し物件が増え、希望価格ではなかなか買い手がつかない部屋も出てきました。
「売れば安心だと思っていたのに、簡単じゃないんだね」
幸一さんは初めて不安を覚えました。売却すれば老後資金に余裕ができるはずでしたが、実際には次に住む場所の確保、引っ越し費用、売却時の諸費用、税金の確認など、考えることが山ほどあったのです。
