「できるだけ家で見たい」…娘が限界まで続けた父の介護
美紀さん(仮名・58歳)は、81歳の父・昭三さん(仮名)の介護を一人で担ってきました。母はすでに亡くなり、昭三さんは年金月15万円ほどで実家に一人暮らしをしていました。
もともとは几帳面で、庭の手入れや近所づきあいも欠かさない人でしたが、数年前に脳梗塞を起こしてから足腰が弱り、要介護認定を受けるようになります。
美紀さんは仕事を続けながら、週に何度も実家へ通いました。買い物、通院の付き添い、薬の管理、掃除、食事の準備。訪問介護やデイサービスも利用していましたが、急な体調不良や転倒の連絡が入るたび、職場を早退することもありました。
「父は施設に入りたくないと言っていました。だから、できるところまでは家で見ようと思っていたんです」
しかし、介護は少しずつ重くなっていきました。夜中にトイレへ行こうとして転倒することが増え、火の消し忘れもありました。
美紀さんが注意すると、昭三さんは「迷惑をかけてすまない」と小さく言います。その言葉を聞くたび、美紀さんは胸が締めつけられました。
厚生労働省『介護保険事業状況報告』によると、要介護認定者数は高齢化の進展とともに増加しています。家族だけで介護を抱え込むことは難しく、介護保険サービスや施設介護を組み合わせることが重要になっています。
転機となったのは、昭三さんが冬の朝に玄関先で転倒したことでした。幸い骨折はありませんでしたが、発見が遅れていれば命に関わる可能性もありました。主治医やケアマネジャーからも、「一人暮らしを続けるには危険が大きい」と言われます。
美紀さんは特別養護老人ホームへの申し込みを決めました。特養は、原則として要介護3以上の高齢者が対象となる公的な介護施設です。
費用は民間の有料老人ホームより抑えられる傾向がありますが、地域によっては待機期間が長くなることもあります。昭三さんの場合も、すぐに入れるわけではありませんでした。
それから半年後、空きが出たという連絡が入りました。美紀さんは安堵した一方で、心のどこかが重くなるのを感じました。父を安全な場所へ移せる。それなのに、自分が父を家から追い出すような気持ちにもなったのです。
