「大丈夫」と繰り返していた母…娘が見過ごしていた小さな異変
朋美さん(仮名・52歳)は、85歳の母・節子さん(仮名)と離れて暮らしています。父は10年前に亡くなり、節子さんは古い戸建てで一人暮らしを続けていました。年金は月12万円ほど。持ち家のため家賃はかかりませんが、光熱費や食費、医療費、固定資産税、家の修繕費を考えると、決して余裕のある生活ではありません。
朋美さんは仕事と子育てに追われ、実家へ帰るのは年に数回でした。電話は週に一度ほどしていましたが、節子さんはいつも明るい声で答えます。
「ちゃんと食べてるから大丈夫よ」
「寒くない? 暖房つけてる?」
「平気平気。昔から寒さには強いもの」
その言葉に、朋美さんは安心していました。母はもともと我慢強く、節約も得意です。近所づきあいもあり、困ったことがあれば誰かに相談しているだろうと思っていました。
総務省『家計調査(2025年)』によると、65歳以上の単身無職世帯では、可処分所得約11.9万円に対し、消費支出は約14.9万円となっており、平均で毎月約3万円の不足が生じています。もちろん実際の家計は住まいや健康状態によって異なりますが、年金だけで暮らす高齢者にとって、物価上昇や医療費の負担は大きな問題です。
節子さんも、少しずつ生活を切り詰めていました。買い物は夕方の値引き品を選び、冬でも暖房は短時間しか使わない。古くなった家電も買い替えず、壊れたままの照明も「まだ明るいから」と放置していました。それでも電話では、そうした話をほとんどしませんでした。
「娘には娘の生活があるから」
近所の人にそう漏らしたこともあったといいます。
異変に気づいたのは、朋美さんが半年ぶりに実家へ帰った日でした。玄関を開けると、家の中は思ったより冷え込んでいました。台所には使いかけの総菜が小分けにされ、冷蔵庫には同じような値引きシールの貼られた食品がいくつも並んでいました。
そして朋美さんが言葉を失ったのは、居間の隅に置かれた小さな段ボールを見たときでした。中には、使い捨てカイロの空袋が何十枚も入っていたのです。
