「担当者のせい」は通用しない…ローンの“用途違い”の代償
きっかけは、知人とのなにげない会話だった。
「それ、本当に投資用ローンなの? 住宅ローンじゃない?」
そう指摘され改めて確認してみると、融資の前提が「本人が居住する住宅の取得」となっている可能性が浮上したのだ。不安になったAさんは、不動産会社へ問い合わせた。すると担当者は落ち着いた様子でこう答えた。
「名目上は居住用ですが、問題ありませんよ。サブリースにすれば大丈夫です。家賃収入で返済できますし、同じような形で購入している方も多いです」
しかし、Aさんの不安は消えなかった。もし金融機関が、融資申込み時の説明と実際の利用状況の違いに気づいたらどうなるのか?
「住宅ローン」は本来、購入者自身が居住する住宅を取得するための融資商品である。この点、投資用不動産には空室リスクや賃料下落リスクがあるため、金融機関は住宅ローンとは異なる基準で審査を行う。そのため、融資契約の前提と実際の利用状況が異なる場合、金融機関とのあいだで問題が生じる可能性がある。
具体的な対応は契約内容や金融機関の判断によって異なるが、たとえば下記のような点が問題となりうる。
・融資条件の変更
・返済方法についての再協議
・残債の一括返済を求められる可能性
・今後の融資取引への影響
・場合によっては刑事上の問題に発展する可能性
「営業担当者にいわれた」「ほかの人もやっている」という事情だけで、必ず責任を免れるわけではないため、注意が必要だ。最終的に融資契約を締結するのは投資家本人であり、契約内容を確認する責任も本人にある。もっとも、実際にどのような責任が生じるかは、融資申込時の状況によって変わる。たとえば、
・金融機関に対してどのような説明をしていたのか
・投資家本人は融資条件をどのように理解していたのか
・不動産会社からどのような説明や勧誘を受けていたのか
といった事情を確認しなければならない。不動産投資では、営業担当者の説明だけでなく、最終的に締結した融資契約の内容が重要になる。
Aさんは、「購入前に契約内容をもっと確認すべきだった」と痛感した。
「300万円」か「信用」か…重視すべき、優先順位
Aさんはこの一件で、マンションの売却を検討するようになった。しかし、ここで新たな悩みに直面する。購入したマンションをすぐに売却すると、約300万円の損失が発生する見込みであることがわかったのだ。
「300万円の損失を受け入れて売るべきなのか」「このまま保有し続けるべきなのか」、Aさんは迷った。
たしかに300万円の損失は、Aさんにとって大きな負担だ。しかし、長い目で見れば、金融機関との信頼関係が揺らぐことのほうが、将来に与える影響は大きい。住宅ローンや事業融資など、資産形成において金融機関との取引は密接なものだ。目先の損失を避けるために問題を放置すれば、将来的に、より大きな不利益につながる可能性もある。
ローン契約に問題がある可能性が浮上した場合、売却を検討する前に、まずは次の資料を整理し、事実関係を確認する必要がある。
・融資申込時の書類
・売買契約書
・重要事項説明書
・不動産会社から受けた説明内容
そのうえで、「融資契約上どのような問題があるのか」「説明内容に問題はなかったのか」「売却以外に適切な対応方法はあるのか」を検討することになる。
最終的にAさんは、金融機関との信用を守ることを優先し、マンションの売却を決断した。約300万円の損失が発生したが、Aさんは次のように振り返る。
「高い勉強代になりました。でも、大きな問題になる前に気づけてよかったと思ってます」
不動産投資では、利回りや節税効果、毎月の収支といった数字に目を奪われがちだ。しかし本当に確認すべきなのは、「その数字はどのような前提で計算されているのか」「融資条件や契約内容を正しく理解できているか」といった“本質”である。
不動産投資の成否を左右するのは、「物件」だけではない。契約書の一文や融資条件、営業担当者の説明……そうした小さな見落としが、あとになって大きな問題につながることがある。
資産を増やすための投資だからこそ、購入前に「儲かるかどうか」だけではなく、「その取引は適切な条件で成立しているのか」を確認することが、将来の資産と信用を守る第一歩となるだろう。
松井 竜介
陽なた法律事務所 代表弁護士
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