(※写真はイメージです/PIXTA)

退職金は、多くの人にとって人生で手にする最大級のまとまった資金です。老後の生活費や医療費、介護費への備えとして大切に保管したい一方で、「少しでも増やしたい」と考える人も少なくありません。しかし、退職金は現役時代の資産運用とは意味合いが異なります。大きな損失を取り戻す時間が限られるからこそ、判断を誤ったときの影響も大きくなります。

「増える可能性」ばかり見ていた…老後資金運用の落とし穴

勝彦さんは当初、「高配当株なら配当を受け取りながら長く保有できる」と考えていました。しかし実際には、配当も株価も保証されているわけではありません。企業の業績が悪化すれば減配が行われることもありますし、その発表を受けて株価が大きく下落することもあります。

 

今回のケースでは、まさにその両方が起きました。期待していた配当収入は減少し、保有資産の評価額も大きく目減りしたのです。

 

「利回りばかり見ていて、その会社の業績やリスクまで十分に考えられていませんでした」

 

妻は責めることはありませんでした。ただ家計の見直しをしていたある日、こんな言葉を口にしたといいます。

 

「私たちが欲しかったのは高い配当じゃなくて、安心して暮らせる老後だったんじゃない?」

 

その一言は、勝彦さんの胸に深く残りました。

 

金融庁は資産形成の基本として「長期・積立・分散」の考え方を示しています。特定の企業や業種に資金を集中させると、業績悪化や減配が起きた際の影響を大きく受けるためです。現役世代であれば、時間をかけて損失の回復を待つこともできますが、老後資金の場合は事情が異なります。

 

退職金は、将来の生活費や医療費、介護費、住宅の修繕費などを支える大切な資金です。そのため、「どれだけ増えるか」だけでなく、「どれだけ減る可能性があるか」という視点も欠かせません。

 

その後、勝彦さん夫婦は資産の整理を行いました。生活費として必要になるお金は預金で確保し、運用資金についても一部を売却して資産を分散させることにしたのです。損失をすぐに取り戻せるわけではありませんが、これ以上大きな値動きに振り回されない体制を優先しました。

 

「退職金を運用すること自体が悪いとは思っていません。ただ、自分は増える場面ばかり想像して、減る場面を具体的に考えていなかったんです」

 

そう語る勝彦さんの表情には、悔しさと反省がにじんでいました。

 

退職金をどう活用するかは人それぞれです。しかし、老後資金は一度大きく減らしてしまうと、現役時代のように働いて取り戻すことが難しい場合もあります。だからこそ、利回りの高さや配当額だけで判断するのではなく、自分がどの程度のリスクまで受け入れられるのかを冷静に考えることが重要です。

 

 

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